「パーパス(企業の存在意義)」を明確に定めてESG経営を実践していた著名CEOが解任された。サステナビリティ(持続的成長)の大前提として株主価値向上が強く問われている。

 ヨーグルト製品や飲料水「エビアン」で知られる仏食品大手ダノンは2021年3月15日、エマニュエル・ファベール会長兼最高経営責任者(CEO)を同日付で解任したと発表した。同CEOを巡っては業績不振の責任があるとしてアクティビスト(もの言う株主)であるヘッジファンドのブルーベルなどが交代を求めていた。

ESG経営を積極的に推進してきた仏ダノンのエマニュエル・ファベール会長兼最高経営責任者(CEO)は、業績不振を理由に解任された
(写真:AFP/アフロ)

 14年にCEOに就いたファベール氏は「人と自然重視の資本主義」を唱えて、ESG経営を推進してきた。

 20年には取締役会から独立して環境や社会の取り組みの進捗を監督するミッション委員会を10人のメンバーで設立。同年6月の株主総会で定款変更をして、「使命を果たす会社」として取り組む新たな4つの目標を盛り込んだ。製品を介した健康の改善、地球資源の保護、将来を社員と形成すること、包摂的な成長の4つからなり、収益性を重視しながらも社会的使命を果たすパーパス(企業の存在意義)の実践、さらにステークホルダー資本主義を標榜した。

 この方針に当初は株主も賛成していたが、雲行きが変わったのは20年の株価動向がさえなかったためだ。20年通年でダノンの株価は27%下落。新型コロナの影響があったとはいえ、同業のネスレの2%下落、英ユニリーバの1%上昇と比べて見劣りする結果となった。

 注目すべきは少数株主で知名度も高くない新興ファンドのブルーベルに多くが賛同したことだ。株価の下落よりも、コロナ禍で先が見通しにくい中で、収益向上策が出ていないことへの不満があったとみられる。

ヤクルト株も売却

 ファベールCEOも対策は打っていた。投資家の要求に応える形で、20年10月に事業改革プランを発表。人員削減やアルゼンチンでの事業の縮小、乳製品事業の売却などを急ぐ一方、外部から幹部を採用して、北米事業や研究開発の責任者に充てる人事も進めた。さらに、長く保有していたヤクルト株も売却。最近でも中国企業の見直しを発表している。

 自然環境保護という長期ビジョンの推進に加えて、収益改善も急いだが、短期的な改善を求める投資家を説得できなかった。

 ダノンの株価はファベールCEOの退任を受けて上昇。CEOは後継者を探す間空席となり、新会長には仏電気設備大手ルグランのジル・シュネップ元CEOを招いた。

 今回の解任劇を巡っては、ESG経営の難しさを2つの側面で示している。1つは、長期的なビジョンと短期的な収益のバランス。地球や人類の将来のために働くサステナビリティー経営を株主が支持する一方で、収益の確保も強く求める構図が浮かぶ。2点目はポスト・コロナへの対応だ。世界的な金融緩和を受けて株式市場は上昇、資金調達もしやすい状況にある。「『コロナ禍だから』は言い訳にならない」との認識がアクティビストらに強まっている。

 長く続くコロナ禍という特異な経済環境に置かれているだけに、経営方針や収益プランについて、企業と投資家の間で新しい軸やコンセンサス(同意)を設ける時が来ている。