国の目標の引き上げにより、経営者が中期の気候変動対策を発信した。金融による投融資の脱炭素化を背景に、鉄鋼は技術革新に生き残りをかける。

 国が2050年のカーボンニュートラルに続き、30年度における新しい温室効果ガス削減目標を発表したことが引き金となり、金融機関や企業が気候変動対策を本業の主軸に据える動きが加速している。21年5月に集中した経営方針発表では、事業の脱炭素化に取り組み、成長の源泉にすると経営者自身が発信する姿が見られた。

投融資先の排出削減求める

三菱UFJフィナンシャル・グループ
亀澤 宏規 社長 グループCEO

 三菱UFJフィナンシャル・グループは5月19日の21年3月期決算の投資家説明会で亀澤宏規社長がパーパス(存在意義)として「世界が進むチカラになる。」を発信し、23年までの新中期経営計画としてROE(自己資本利益率)を7.5%にし、中長期で9~10%にする方針を示した。

 実現への具体策としてデジタルトランスフォーメーション(DX)や環境・社会課題解決と経営戦略の一体化などを挙げ、国内の銀行として初めて投融資先からの温室効果ガス排出量を50年に実質ゼロにすると示した。30年の投融資先排出量の削減目標も22年度中に固めるという。

農林中央金庫
奥 和登 理事長

 農林中央金庫も5月26日、中長期経営目標を発表し、投融資先の排出量を30年までに13年比で50%削減する方針を発表した。46%削減を求める国の目標よりも踏み込んだ。農林中金の奥和登理事長は、「パーパスとして持続可能な地球環境に貢献する。取引先や投融資先と協力し、働きかけながら進める」と表明。同社が直接、または資産運用会社が行うエンゲージメントなどで働きかける。投融資先すべてに50%削減を求めるより、業種ごとの事情を考慮する。

 投融資ポートフォリオの脱炭素化は「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言において、金融システムが抱える気候リスクを抑えるために、銀行はもとより金融業界全体の課題と指摘されてきた。

 欧米を中心に、保険会社や年金基金など実質ゼロを目指すアセットオーナーや、資産運用会社、銀行がイニシアチブを創設した。三菱UFJフィナンシャル・グループはその1つで21年4月に創設されたばかりの「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(実質ゼロを目指す銀行連合)」に邦銀として初めて参加した。

 国内の金融業界は19年、一斉にTCFD提言に賛同したものの、金融業界の力を生かした投融資先に対する削減への働きかけでは様子見の姿勢だった。国の方針が明確になったことで、保険会社が先行して実質ゼロに踏み出した。21年1月、日本生命保険が社債と株式の投資先からの排出について50年実質ゼロを目指すと表明。3月には第一生命保険、4月には住友生命保険が続いた。