21年9月の国連総会に続き秋には生物多様性の次期世界目標を定める生物多様性条約締約国会議(COP15)と気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が開かれ、関連の国際交渉が進むことも策定を急がせた。

■ 食や農林水産業に関する世界の主な動き
■ 食や農林水産業に関する世界の主な動き
IPBES:生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム
IPCC:気候変動に関する政府間パネル

 特に欧米が野心的に動いている。欧州連合(EU)はカーボンニュートラルを目指す成長戦略「グリーンディール」を支える戦略として20年5月、食のサプライチェーンを持続可能にする「農場から食卓まで戦略」を発表。実現のための法整備も着々と進め、気候変動と生物多様性、食料問題をともに解決する姿勢だ。

■ EU「農場から食卓まで戦略」の概要
■ EU「農場から食卓まで戦略」の概要

有機農地を50倍に拡大

 みどりの食料システム戦略は50年を目標年とし、目指す姿と取り組むべき方向性や具体例を示した。特徴は、高い数値目標を掲げたことだ。農林水産業におけるCO2排出ゼロを目指し、農業・林業機械や漁船の電化や水素活用、バイオ炭や海藻を活用したCO2固定を進める。

 有機農業の推進も打ち出した。化学農薬の削減と、肥料を有機肥料に替える技術の確立で、有機農地の比率を現状の0.5%から25%に高める。関連団体との意見交換会では「実現できるのか」との意見も出たが、コメ作りで有機の技術が定着しているため、「トップランナーを意識した目標設定にした」(農水省大臣官房の久保牧衣子環境政策室長)。水産では絶滅危惧種のニホンウナギとクロマグロの養殖をすべて完全養殖にする。森林はカーボンニュートラル実現に向けCO2吸収量を最大化する。

 後継者不足に対処するため、スマート農業などのイノベーションも活用する。ドローンによるピンポイントの農薬散布や、土壌や生育データに基づく施肥管理を行い、農薬や肥料を抑えて環境配慮を進める。

 50年に向けて、30年までにトップランナーの技術を横展開し、40年までに革新的技術や生産体制を開発する。「税、制度の整備、予算措置も行っていく」(久保氏)。策定前のパブリックコメントでは「ゲノム編集作物」を新技術として紹介していることへの反対意見が多く寄せられた。これについて農水省は、新技術の実装は国民とコミュニケーションを図りながら検討するとしている。

 今回の食の戦略は21年9月の国連総会、COP15、COP26で世界に発信する予定だ。野心的な数値目標が並ぶが、法整備などによる実行力が伴わなければ絵に描いた餅になる。気候変動と生物多様性の問題解決に寄与し、1次産業再生と地方創生の切り札になるか、これから茨の道が続く。