杉山 俊幸/日経BP 総合研究所 主席研究員

企業経営にとって、ESGと安全保障の戦略が不可欠になってきている。より重要度を増すサプライチェーン管理の上でも“非財務情報”が重要だ。

 「企業や社会のサステナビリティを、究極の形として下支えするのが安全保障かもしれませんね」

 こう語るのは国家安全保障局(NSS)前局長の北村滋氏だ。今国会での経済安全保障推進法の成立を見るまでもなく、安全保障と経済活動はもはや不可分と言って差し支えなかろう。経済において存在感が高まるESG経営と、安全保障のインテリジェンス(情報収集・分析)の総本山であるNSSトップだった人物をつなぐキーワード、それはグローバルなサプライチェーン(供給網)である。

グローバル化の終焉?

 サプライチェーンは様々に形を変えてきた。半導体製造の主流は以前の垂直統合型から水平分業型へとシフトし、水平分業の雄、台湾積体電路製造(TSMC)が垂直統合で一時世界を席巻した日本で新工場を建設する。電気自動車(EV)へのシフトが急な自動車製造でも、水平分業化という名のサプライチェーンのグローバル化が進む。

 ただ話はそう単純ではない。米中の経済戦争は中国部品の輸出入をいびつなものに変え、新型コロナウイルスはサプライチェーンを寸断し、そしてウクライナ危機は地政学リスクを顕在化させた。世界最大の資産運用会社である米ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は2022年3月に株主に宛てた手紙で、ウクライナ侵攻はグローバリゼーションに終止符を打ち企業にサプライチェーンの見直しを促すだろう、と記した。またエネルギー調達の面から温室効果ガスの実質ゼロへの転換は一時的な停滞が避けられない、と踏み込んだ。

グリーンウオッシング見極めよ

 進化と見直しが進むサプライチェーン、その実態を精緻に把握することはESG経営の前提となる。グリーンウオッシング(見せかけの環境対応)を見極めるため、「例えば森林伐採の有無を確認するのに携帯電話の全地球測位システム(GPS)を使って取引先の取引先といった具合に追跡し、それらが関係する森林の状態を衛星データで分析するのです」。衛星データ解析の米オービタルインサイトのアジア太平洋統括責任者であるマイク・キム氏はこう語る。同社の技術を使って、英ユニリーバは取引先のパーム油農園の現状を逐次把握している。

物体検出アルゴリズムにより、衛星データ画像に含まれる車両を人工知能(AI)で解析。中国の上海の様子(青色が車両)<br><span class="fontSizeS">(写真:米オービタルインサイト)</span>
物体検出アルゴリズムにより、衛星データ画像に含まれる車両を人工知能(AI)で解析。中国の上海の様子(青色が車両)
(写真:米オービタルインサイト)

 先端技術の活用に加え、グローバルなサプライチェーンの維持、増強に欠かせないのが安全保障の観点だ。地政学リスクを下げるためインテリジェンスを駆使し正確な情報を得て精緻な分析をする。重要なのが関係先との信頼性や透明性だ。かつてサプライチェーンで重視されたのは納期短縮やコスト削減など財務諸表に表れる項目だった。安全保障との距離が近づくことで信頼性など“非財務情報”が大切になってきている。

杉山 俊幸(すぎやま・としゆき)
日経ビジネス編集委員、副編集長を経て日経デジタルマーケティング編集長、日経ビッグデータラボ所長、日経クロストレンド発行人などを経て現職。菅義偉氏、安倍晋三氏などの取材を通じ社会課題への政策対応を執筆、2007年には水俣特集で循環型社会を紹介し現在も関連テーマを追う