市場環境の変化を捉えた素早い事業ポートフォリオ改革も特徴だ。21年2月4日には、南米コロンビアの発電用石炭の鉱山権益を21年度中に売却すると発表。23年度までに発電用石炭から完全撤退する。4月にはエネルギー・化学品部門のトップを務めていた石井氏が社長に就任し、市場を驚かせた。市場はこれを脱炭素の動きを捉えたエネルギー事業の加速と受け止めた。将来成長を足元から示すことも、現在の企業価値を高めていると言えそうだ。

 脱炭素や気候変動への素早い対応は事業リスクを抑える効果をもたらし、株主資本コストを低減させ、企業価値を向上させる。同社では、株主資本コストを8%程度と見積もっており、理論値より3%程度高めの水準を掲げている。同社の経営企画担当者は、「8%をはるかに上回る13~16%のROE目標を掲げており、投資家の期待に応えていく認識を共有している」と打ち明ける。

「三方よし」でも投資家重視

 ROEの高さも目を引く。21年3月末のROEは12.1%である。他社の多くが10%を下回るなか、10年以上10%超を維持。直近5年間の平均ROEは15.6%で、その高さが目立つ。

 ROEは、株主資本からどれだけ効率的に利益を生み出したかを表す。同社はこの10年間、利益率の向上に磨きをかけてきた。その合言葉が「かけふ」だ。これは、「稼ぐ・削る・防ぐ」の頭文字を取った伊藤忠商事の商いの3原則である。

 この言葉をつくったのが、10年から指揮を執る岡藤正広会長CEOである。応接室に「かけふ」の書を飾り、全社を挙げて実践してきた。商社を分析するQUICKリサーチ本部企業価値研究所の堀内敏成チーフストラテジストは、「岡藤氏が10年間積み重ねてきた結果が表れている。経営スピードと実践力が企業価値を高めている」と話す。

左から、小林文彦副社長CAO、岡藤正広会長CEO、 モデルでITOCHU SDGs STUDIOエバンジェリストの冨永愛氏、石井敬太社長COO
(写真:伊藤忠商事)

 14年から6年続く増配や、積極的な自己株式取得もROEを高める要因になっている。減配せず継続的な増配を目指す「累進配当」の方針も長期投資家を呼び込んでいる。「三方よし」でマルチステークホルダーを意識しながら、長期的な取り組みと足元の利益を両立させ、投資家の期待に応え続ける。これが伊藤忠商事の企業価値につながっている。

 15年に6000億円を投じた中国中信集団との提携や、20年に完全子会社化したファミリーマートの再生など、行く手には難題も待ち受ける。23年までの新中期経営計画では、純利益6000億円を目標とし、その柱に「SDGsへの貢献・取組強化」を掲げた。商社の進化が試される。