投資家が資金使途や成果をリアルタイムに把握できる仕組みを備える。企業のレポーティング負荷低減と「ESGウオッシュ」対策が期待される。

 日本取引所グループ(JPX)は2022年6月3日、デジタル技術を活用したグリーンボンド「グリーン・デジタル・トラック債」を発行した。発行総額は5億円、償還年限は1年、クーポン利率は0.05%である。野村証券が発行支援(ストラクチャリング・エージェント)を担い、野村ホールディングスなどが出資するブーストリー(東京・千代田)がシステム運用を手掛ける。

 デジタル債は、ブロックチェーン(分散型台帳)技術などを使って電子的に発行する債券である。こうしたデジタル証券は、20年5月に施行された改正金融商品取引法で法的に認められた。従来の株式や社債に比べて発行が手軽で、個人向けの社債販売や不動産売買などで利用が始まっている。グリーンボンドのデジタル債の発行は、今回が初めて。投資家は、第一生命保険である。

疑惑対策「切り札」なるか

 特徴は、資金使途や投資成果をリアルタイムに把握できるようにしたところだ。調達資金は、JPX子会社のJPX総研が計画する太陽光発電とバイオマス発電プロジェクトの設備投資に充当する。発電量を自動的に計測する仕組みを備え、CO₂削減量を割り出す。投資家はインターネットを使い、これらのデータをいつでも閲覧できる。データ計測システムを担うのは、日立製作所である。

グリーンボンドが対象とするプロジェクトの発電量やCO₂削減量をリアルタイムに表示。投資家が投入した資金が計画通りに利用され、期待通りの成果が出ているかを把握できるようにする。画面は開発中のもの。2022年8月から閲覧できるようにする<br><span class="fontSizeS">(出所:JPX 総研)</span>
グリーンボンドが対象とするプロジェクトの発電量やCO₂削減量をリアルタイムに表示。投資家が投入した資金が計画通りに利用され、期待通りの成果が出ているかを把握できるようにする。画面は開発中のもの。2022年8月から閲覧できるようにする
(出所:JPX 総研)

 世界的に発行が進んでいるESG債だが、発行後のレポーティングが課題となっている。国際資本市場協会(ICMA)が定めるグリーンボンド原則では、プロジェクトに充当された資金の額、期待される効果などの情報を、全ての調達資金が充当されるまで年に一度は更新すべきとしている。発行体は、データ取得、集計、管理などに手間とコストがかかることが悩みとなっている。

 JPX総研フロンティア戦略部課長の高頭俊氏は、「JPXが自らデジタル債の発行を実践することで、上場企業の情報開示コストが低減されるかどうかを検証したい」と狙いを語る。日立製作所は、社債発行のニーズを通じて、自社が持つデータ計測・管理のノウハウをサービスとして展開したい考えだ。

 資金使途や効果の「見える化」は、世界で懸念が広がる「ESGウオッシュ」対策にもなり得る。ESGファイナンスの発展は、デジタル活用が鍵を握る。