21年5月にグラミン日本が5人のシングルマザーの就労希望者を直接雇用し、トレーニングを開始した。SNSマーケティングやウェブデザインなどのスキルを3カ月かけて習得し、今夏にジョブマッチングを目指す。

 事業を立ち上げるに当たっては、SAPジャパンやアクセンチュアなどグラミン日本のサポーター企業が、報酬を求めない社会貢献活動の一環として支援してきた。発端となったのは、20年1月に開催されたワークショップだ。「企業がグラミン日本と連携できる新事業を考える」がテーマだった。

 各社から様々なアイデアが出される中、SAPジャパン インテリジェントスペンド事業本部バリューアドバイザーの太田智氏は、「企業と就労を希望する女性とのジョブマッチングにSAP Fieldglassを活用できるのではないか」と考えた。

 グラミン銀行は主に貧困や生活困窮の状態にある女性に対し、低利・無担保で少額の融資を行うマイクロファイナンス機関。海外、特に途上国では女性が小商いを始めることで経済的自立を果たせるケースが多いが、日本のシングルマザーにとって起業は相当ハードルが高い。企業の受け皿を広げる方が実情に合う。

 このアイデアを太田氏は自社に持ち帰って事業化検討を進め、SAPがグループ全体で公募する社内起業プログラム「One Billion Lives」にエントリーした。その結果、採択率3%の難関をくぐり抜け、SAPジャパンの新規事業として採用された。

キャリアやスキルを見える化

 こうして20年秋にソーシャル・リクルーティング・プラットフォームの開発が始まった。システムの要件定義からは、アクセンチュアのスタッフも企業市民活動(Corporate Citizenship)の一環としてプロジェクトに参加した。

 「アクセンチュアはこれまで、一般的な採用方法では就労に至らない人々の潜在力を引き出して雇用機会を生み出すインパクト・ハイアリングと呼ぶ活動に積極的に取り組んできた。グラミン日本のプラットフォームはそれを実現する仕組みになり得ると考え、プロジェクトに参加した」と、同社ビジネスコンサルティング本部の芦田ゆきの氏は話す。

 とはいえ、開発は順調に進んだわけではない。趣旨には賛同するものの、いざ新しいプラットフォームを導入するとなるとハードルが高いと感じる人事担当者は少なくない。目に見える導入メリットが必要だ。

 「求める人材のスキルや選考要件などを人事担当者にヒアリングし、それを求職者のトレーニングプログラムに反映させた」(芦田氏)

 最大のポイントは、求職者のキャリアやスキルの見える化だった。どこでどのようなスキルを身に付けたのか、どんな業務を担当したかといった流動的な情報をワークヒストリーとして蓄積するデータベースを構築した。「スキルの見える化で企業は求める人材にアクセスしやすくなり、マッチングの精度を高められる」と、SAPの太田氏は説明する。

 今後、グラミン日本のパートナー企業やSAPのユーザー企業などに広く導入を働きかけていく。会員企業がプラットフォームを利用し人材を採用した際に利用料を受け取ることで、持続的に運用していく考えだ。軌道に乗れば非正規の単身者などにも支援の間口を広げていく。

D&Iを促進する新たな基盤に

 女性の雇用問題に詳しい日本総合研究所の渡辺珠子氏は、DX人材の育成と就労支援を同軸に据えたグラミン日本の取り組みを評価する。

 「最近はSDGsへの貢献を掲げ、女性活用をはじめダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に取り組む企業が増えているが、受け入れ態勢はまだ不十分。女性のスキルアップに取り組む再就職支援会社などと連携しながら受け皿の拡大に取り組むべき」と渡辺氏は提言する。

 多様な人材を活用してこそ企業の持続可能性は高まる。この社会課題に、DXが威力を発揮しそうだ。