最新の気候科学が「温暖化の原因は人間活動」と断定した。報告書のメッセージと活用法について、国立環境研究所の江守正多氏に聞いた。

 世界の科学者で構成される国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は2021年8月6日、第6次評価報告書(AR6)の第1弾となる第1作業部会報告書「自然科学的根拠」を公表した。第1章の代表執筆者を務めた国立環境研究所の江守正多氏に、本報告書から何を読み取るべきかを聞いた。

13年公表の第5次(AR5)からの最大の進展は何か。

江守 正多 氏
国立環境研究所 地球システム領域副領域長
1997年に国立環境研究所に入所。地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室長などを経て、2021年より現職。気候変動に関する政府間パネル第6次評価報告書第1作業部会では第1章の代表執筆者を務めた(写真:国立環境研究所)

江守 AR6はIPCCの歴代の報告書の中で初めて、人間の活動が地球温暖化を引き起こしたことに「疑う余地がない」と表現した。気候変動の科学が精緻になり、政策に関する論点が一層クリアになった。企業は温暖化対策にこれまで以上に強い意思を持って取り組んでほしい。

科学が精緻になったとは、どのような点か。

江守 最も大きな進展が、「平衡気候感度」(ECS)に対する新しい知見だ。ECSとは、大気中のCO2濃度が産業革命以前の水準の2倍になったとき、地球の平均気温が何度上昇するかという指標。CO2増加に対する地球の温度の上がりやすさを示す。

 40年前から研究を積み重ねてきたが、なかなかECSの精度を高めることはできなかった。大気中のCO2濃度が2倍になると、世界の平均気温は1.5~4.5℃上昇する可能性が高いという評価になり、3℃の幅(誤差)を縮められずにいた。それがAR6では、遠い過去の温度変化、気候モデルから得られた証拠など様々な研究を組み合わせることで、気温上昇は2.6~4.1℃(誤差1.5℃)の範囲にあり、3℃が最も確からしいという評価を導き出した。

経営者の中には、人間活動によるCO2排出の増加と温暖化との関係に懐疑的で、コストをかけて対策しても無駄ではないかと主張する人もいる。

江守 そうした論者に対してCO2削減の重要性を訴える説得材料になり得る。感度の最低ラインが1.5℃から2.6℃に上がったことの意味は大きく、「気候感度が低いから対策しなくてもいい」という議論はもう通用しないだろう。

1.5℃目標のシナリオを設定

AR6では2100年までのCO2排出経路に関して5つのシナリオが示された。AR5で採用した「代表的濃度経路(RCP)」との違いは何か。

江守 AR5のRCPは、2100年の大気中の温室効果ガス濃度(それに伴う放射強制力)の目標値を設定したシナリオで、社会経済的な要素は反映していない。

 一方、AR6のシナリオは、統合評価モデルコンソーシアムが開発した「共通社会経済経路(SSP)」をベースにしている。世界の人口や経済成長、教育、都市化、技術開発の速度といった社会経済の様々な変化を今後100年にわたって想定、それとRCPの目標値とを組み合わせたシナリオの中から5つを選んで評価を行った(下の図)。

■ 2100年までのCO2年間排出量を5つのシナリオについて予測
AR6では、将来の人口や経済成長、技術開発の速度といった社会経済的な要素を反映した共通社会経済経路(SSP)と、放射強制力の目標値(RCP)とを組み合わせたシナリオの中から5つを選んで評価を行った。SSP1-1.9が最もCO2排出量が少なく、「1.5℃目標」に相当するシナリオ。SSP1-2.6は「2℃目標」に相当。さらにSSP2-4.5、SSP3-7.0、SSP5-8.5の順に排出量が多くなる
(出所:IPCC AR6 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約(SPM)Figure SPM.4(a))