終戦75周年を迎える2020年8月、広島県は「2020世界平和経済人会議ひろしま」を開催した。「平和」と「経済人」。一見、遠い関係に見えるが、この2つはSDGsでつながっている。
SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」は、企業にとってそれほど身近な目標ではないだろう。平和を守るのは国連や国家などの政治の役割であり、企業が手を出せる問題ではないと考えている人は、筆者以外にも多いのではないだろうか。
8月8日に開催された「2020世界平和経済人会議ひろしま」を視聴して、そんな固定観念を覆された。
「平和」を再定義する
この会議は、「ビジネスのプラットフォームとしての国際平和の重要性を改めて関係者間で共有し、企業やNGO(非政府組織)などの各主体の役割を見つめ直し、ビジネスと平和貢献のあり方との関係を多面的に議論することで、真に平和で持続可能な国際社会につなげることを目指している」(広島県)。5回目を迎える20年は、新型コロナウイルスの影響でオンラインで開催された。
三菱ケミカルホールディングス取締役会長の小林喜三氏が基調講演を行ったのをはじめ、三井住友銀行頭取CEO(最高経営責任者)の髙島誠氏、ゴールドマン・サックス証券副会長のキャシー松井氏、PRI理事で米テスラモーターズ社外取締役の水野弘道氏、慶應義塾大学教授でヤフーCSO(チーフストラテジーオフィサー)の安宅和人氏など、そうそうたるメンバーがパネルディスカッションに参加。新型コロナウイルスやSDGs(持続可能な開発目標)、そして平和をキーワードに議論を繰り広げた。
多くの登壇者に共通していた認識は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)は、自国中心主義の台頭や格差の拡大などかねて社会に内在していた問題を加速させたということだ。
印象に残ったのは、「戦争がないことが平和ではなく、これからは疫病や飢饉がないことまでセットで考えなければならない。平和を再定義する必要がある」という安宅氏のメッセージだ。コロナショックで明らかになったように、ビジネスにとって広い意味での「平和」は大前提だ。企業のSDGsの取り組みは、その平和の実現につながる。「企業が変革のプロセスに主体的に参加することが重要だ」(髙島氏)。
「エネルギーや食料の問題でも脅威は存在する。短期的な利益を追うだけでなく、すべてのステークホルダーに向き合い、世界共通の利益に貢献することが、企業自身の長期的な利益につながることを再認識してほしい」。会議後の取材で広島県の湯崎英彦知事はこう強調した。