ESG投資を必ずしも考慮する必要はないとする米国の年金基金への新規則案に対し、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのサイラス・タラポールヴァラ社長兼最高経営責任者(CEO)がフィナンシャル・タイムズ誌に反論を寄稿した。

 米規制当局の誤った判断のせいで、退職後に備えて貯蓄に努める数百万人もの米国民が将来にわたり利益を損なうと波紋が広がっている。米労働省が2020年6月に発表したエリサ法(従業員退職所得保障法)の新規則案は、年金基金が投資先を選択する際のESGの考慮を思いとどまらせるものだ。運用パフォーマンスにとって重要なことを誤解しており、労働省はこの新規則案を撤回すべきだ。

 エリサ法が適用される年金基金の資産運用会社には、長期リターンの最大化を追求する受託者責任がある、と規制当局は定めている。これには当社も同意見だ。つまり、リターンにマテリアル(重要)な影響を及ぼすあらゆるリスクと投資機会について、受託者は考慮する責任がある。

 我々は「バリューズ(価値観)志向型投資」と「バリュー(価値)志向型投資」を明確に区別する必要があるだろう。バリューズ志向型は、投資家自身のESGの選好に沿った戦略であり、リターンよりも社会に与える影響度を優先する。一方、バリュー志向型は、リターンの最大化を追求しつつ、従来の財務指標に基づく投資基準にESG要因も組み入れる。

 最近では、運用会社が重視すべきいわゆる「金銭的要素」に、マテリアルなESG課題も含まれると立証する調査結果が増えてきた。経済構造の変化やテクノロジーがもたらすビジネスモデルの変革により、ブランド価値や従業員のエンゲージメントといった無形資産から企業が得る価値が高まっている。従来の財務会計は投資判断の材料としてますます完全性を欠きつつある。旧態依然とした製造業が有形資産に依存するのとは異なり、現代の知識ベースの企業は技術や人材を競争優位性の主要な源泉としているためだ。

マテリアルなESGの明確化を

 新型コロナウイルス感染症が全世界で猛威を振るう中、当社は社会的な特性が企業の回復力を示す指標だとする見方を強めている。当社の調査では、万全な従業員の安全対策、効果的なサプライチェーン、そして新しいニーズに合わせて既存製品を別目的で再利用する臨機応変な事業展開などESGの特性が強い企業の株式は、20年3月の株価急落局面で競合他社に比べ下げが小幅にとどまった。年金基金加入者の投資期間は長期に及ぶ。価値創造に焦点を当てた長期的な投資を促進する枠組みとして、労働省はESGを歓迎すべきだ。

 そのためにも、ESGのマテリアルな課題とそうではない課題の間に広がるグレーゾーンを曖昧なままにしておいてはならない。政策担当者、ポートフォリオマネジャー、年金基金、研究者、そしてCFA協会などの基準設定団体は、米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)や気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)と協力し、より優れた測定基準、方法論、報告基準の策定に努める必要がある。

 人的資本開発などは、ESGバリュードライバー(企業価値を高める要因)となる無形資産だ。これらがもたらす財務的影響を投資家がより適切に評価できるよう、研究者らは測定手法の開発に取り組み、成果を上げている。ESG情報の質、一貫性、そして比較可能性が向上すれば、ESGと財務的重要性との関係がより明確になるはずだ。先行き不透明な現代に、ESGは企業の強い回復力と持続可能な成長にますます重要な役割を果たしている。投資の意思決定でESG課題への配慮を促していくことは、米国の退職所得保障制度に長い目で見てプラスになるだろう。

Cyrus Taraporevala ©Financial Times.Ltd 2020 Aug 2