新型コロナの影響が、持続的な社会を望む消費者の意識を後押ししている。商品を通じて消費者と協働し、社会課題の解決を目指す。そこに商機がある。

 消費者庁は2020年7月7日、国の消費者政策の目標を示した。これは、国が4月に刷新した「消費者基本計画」に基づくものだ。

 消費者基本計画は、消費者の利益保護などを目的とし、今後5年間の重点施策を掲げたものである。災害の激甚化や新型コロナウイルス感染症の拡大など、消費者を取り巻く環境は変化している。今回の改訂は、こうした変化を踏まえた。

 注目は、持続可能な社会の実現に向けた機運の高まりを捉え、SDGsとESGの推進を打ち出したことだ。重点施策の柱の1つとして、「消費者と企業の協働」を掲げた。

 消費者と企業の関係はどうあるべきか。企業価値を高める消費者戦略の要点は何か。消費者庁の伊藤明子長官に聞いた。

消費者は保護から協働へ

新たな消費者基本計画で、「消費者と企業の協働」を打ち出した。

伊藤 明子氏
消費者庁 長官(写真:中島 正之)

伊藤 明子 氏(以下、敬称略)09年に消費者庁が設立され、丸10年が経った。この間、企業と消費者の関係が大きく変わった。

 もともと、消費者は企業と比べて圧倒的に弱い存在で、消費者は「保護すべき存在」という位置付けだった。そのため、「消費者対企業」という形で捉えられがちだった。

 しかし、少子高齢化、グローバル化、大規模災害や感染症の拡大など、消費者を取り巻く社会は急速に変化している。こうした社会課題に対応するには、国や企業だけでは限界があり、消費者との協働が欠かせない。

 人口減少で消費者一人ひとりの価値は高まっていく。企業は、消費者に寄り添い、声を経営に生かす取り組みが求められる。当然、企業のビジネスモデルも変えていく必要があるだろう。消費者の声を単なるクレームとして片付けるのではなく、積極的に経営に生かす。そんな企業を応援していく。消費者行政は、新しいステージに入った。

新たな消費者行政にSDGsやESGの視点はどのように取り入れられているのか。

伊藤消費者庁は、SDGs目標12の「つくる責任つかう責任」において、「つかう責任」の監督を担う。日本のGDP約552兆円のうち家計消費は約296兆円で、53.6%を占める。良い消費によって良い経済と社会をつくる。

 20年7月に重点施策の工程表を公表し、施策それぞれのSDGs目標を示した。食品ロス削減は、消費者と企業の協働が求められる典型例だ。19年10月に施行された「食品ロスの削減の推進に関する法律」を基に取り組みを進めている。SDGs目標を受け、30年までに半減を目指す。食の分野でエネルギーや資源の無駄を省く意識を高めることは、他の分野への波及効果も大きい。

 環境や社会に配慮した商品を購入する「エシカル消費」に関心を持っている消費者は現在6割程度だが、これを9割以上に引き上げる。消費行動は、企業や社会に対する消費者の「投票」だ。消費者のこうした意識醸成を通じて、環境や社会に配慮した企業を応援し、持続可能な社会づくりを図る。

 ガバナンス関連の施策としては、20年6月に公益通報者保護法を改正し、より実効性のあるものにして、内部通報体制整備を法的に義務付けた。従業員も消費者であり、コーポレートガバナンスの重要な担い手だ。認証制度などを通して、風通しの良い信頼できる企業を支援していく。

■ 消費者庁のESG関連施策と目標
2020年4月に始まった新たな消費者基本計画では、重要施策の柱に「消費者と事業者の連携」を掲げた。7月には個々の施策について、数値目標と対応するSDGs目標を示した(出所:消費者庁「消費者基本計画工程表」)
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