松田 千恵子/東京都立大学 大学院 経営学研究科 教授

 2020年8月31日に行われた「日経大丸有エリアSDGsフェス」(日本経済新聞社、日経BP主催)で、「ESG経営を強くするポストコロナのコーポレートガバナンス」と題して講演しました。ここでは、その内容をぎゅっとまとめたダイジェストをお届けします。

8月31日に開催された「日経大丸有エリアSDGsフェス」での講演「ESG経営を強くするポストコロナのコーポレートガバナンス」の様子。講演内容は、日経チャンネルで視聴できる。
https://channel.nikkei.co.jp/e/sdgs_esg/

経営者の役割が大きくなる

 コロナ禍には「先送りしていた問題を表面化・加速化する力」があります。その中には将来に向けた変化も多くあることでしょう。ESGの進展、イノベーションの加速などです。

 一方、嬉しいことばかりではありません。既存市場が消えたり、ビジネスモデルの限界が露呈することもあるでしょう。企業の消滅や合従連衡も既に水面下でうごめいています。どの企業も将来像を描き直し、その実現のために重大な意思決定をしなければならなくなっています。

 ポストコロナ時代において、意思決定の担い手としての経営者(マネジメント層)の役割は増大します。経営者を規律付ける「ガバナンス」の役割も増していくでしょう。

実効性が問われる

 ガバナンスの中心は、何といっても取締役会です。以前は執行における細かな意思決定を多く行っていましたが、前述のような環境にさらされることにより、「会社の目指すべきところ」に関する重大な意思決定を行う場、そして、その意思決定を担うマネジメントを監督する「モニタリング」としての機能が一層強まるでしょう。社外取締役は、株主の負託を受けた存在として、実効性ある監督機能を果たすことが今以上に求められます。

 今後考えておかなければならないのは、「株主以外のステークホルダーからのガバナンス」です。日本では、これらの人々は株主よりも穏当で協調的という理解が一般的ですが、そんなことはありません。ESGのうねりとともに、人権団体や環境保護団体などが企業との対話を求める例が増えています。

 なかには、株式保有を行った上で、企業の将来像の変更を強く求めるケースもあります。株主との対話は経済的なリターンを中心に進められますが、こうした団体との対話は社会的な正義を振りかざされることも多く、それが主観に根差すものである場合、対応は一層難しくなることが考えられます。

従業員はステークホルダー

 「ステークホルダーとしての従業員」も忘れてはいけません。従業員を「ウチの奴ら」などと言って身内扱いし、「コロナ感染のリスクがあっても会社に来るのが社員の務め」などと言う経営者が率いる企業は、早晩滅ぶでしょう。

 GAFAのように国家を越える巨大IT企業が出始めたのと同様に、個人も有能な人材ほど企業を越えて活躍し始めています。こうした有能な人材を囲い込み、引き留めるためには、従業員への対応を一から見直さなければなりません。旧態依然とした人事制度は、もうさすがにお役御免になっていくでしょう。