2つの価値で将来を語れ

松田 千恵子(まつだ・ちえこ)
東京外国語大学外国語学部卒業。仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士。筑波大学大学院企業科学専攻博士課程修了。博士(経営学)。日本長期信用銀行、ムーディーズジャパン格付けアナリスト、国内外戦略コンサルティングファームパートナーなどを経て現職

 社内は必然的に多様性に富むようになりますが、ともすればバラバラになってしまいがちです。それを繋ぎとめるためには、強い求心力を持った「旗印」が必要です。それが経営者であり、経営者が語る企業の将来像です。語るべき将来像には、2つの価値が含まれます。

 1つは経済的価値です。企業が存続するためには、儲けなければなりません。この儲けは、将来キャッシュフローを生み出す力で測ります。ただ、数字だけではなく、その背景にある戦略、具体的には市場や競合、自社の強みといった各要素が論理立ててつながり、1つのストーリーになっている必要があります。

 企業にはもう1つ、社会的価値の実現という目標があります。どんな企業も、創業した時の熱い思いがあるはずです。「こういう製品で世の中を良くしたい」といったものです。これらは企業理念という形で具現化されているでしょう。

 とはいえ、単なる社会貢献をうたうような勘違いもいまだ多くあります。社会的価値は、経済的価値を生むビジネスと切り離せません。また経済的価値も、社会的価値を離れては持続できません。企業たるもの経済的価値と社会的価値の両立が求められるのです。

本社を経営者の右腕に

 筆者はよく、経済的価値を「左脳的な価値」、社会的価値を「右脳的な価値」と言っています。左脳と右脳だけでは人間の頭は動きません。「脳梁」がつないでこそ機能します。この「脳梁」の役割を果たすのが経営者です。2つの価値を統合した企業の将来像を実現する責任者になります。統合報告書の「統合」はここからきています。統合報告書は、経営者の将来に向けた所信表明演説といえるでしょう。

 ただ、こうした働きは、経営者一人でできるものではありません。右腕が必要です。経営者の右腕となるのが「本社」、すなわちコーポレート部門です。

 残念ながら従来の本社機能は、右腕にふさわしい状態にはなっていません。余分な機能、足りない機能が多くあります。コングロマリット・ディスカウント(複合企業の価値低下)にも対処できていませんし、グループガバナンスの問題も山積です。本社の改革が喫緊の課題です。

 特に、「カネ」「ヒト」「情報」のプラットフォームの変革は早急に必要でしょう。既に様々な企業が動き出していますが、一方では未だ抵抗勢力も多くいます。しかし、これだけ環境が変わっている時に、自ら変わろうとしない企業はさすがにもう生き残れないでしょう。まずはここにあるような要素を、取締役会の場、あるいは実務の現場で話し合ってみてはいかがでしょうか。

■ コロナ時代のガバナンスで重要なこと