ESGにまつわるデータを分析し、ESGの将来価値を算出した。独自の経営指標を打ち出し、投資家対話で投資家の心をつかむ。

 エーザイは2020年8月12日、同社のESGの取り組みが何年後に企業価値として表れるかを示した統合報告書を公表した。統合報告書でESGの取り組みを報告する企業は多い。しかし、ESGの取り組みが何年後にいくらの企業価値になるのかを具体的に示した報告はこれまでなかった。同社の柳良平CFO(最高財務責任者)は、「ESGの見えない価値を実際の企業で定量化して示した世界初の試み」と言う。

 柳CFOが調べたのは、「CO2排出量」「女性管理職比率」などエーザイのESGの取り組みに関する数値と、企業価値を示す経営指標であるPBR(株価純資産倍率)との相関だ。回帰分析と呼ばれる統計的手法を用いて調べた結果、「人件費投入を1割増やすと5年後にPBRが13.8%上がる」「研究開発費を1割増やすと17年後にPBRが8.2%上がる」といった相関が得られた。

■ ESGの取り組みが何年後に企業価値になるか
エーザイの検証結果。PBRは株価純資産倍率の略で、企業価値を示す指標の1つ。ESGの取り組みについて、何年後にPBRの向上効果が見られたかを調べた
(出所:柳良平『CFOポリシー』)

 データ分析を担当したのはアビームコンサルティングである。扱うデータ数は1万を超えた。企業のESG経営をデジタルトランスフォーメーション(DX)が後押ししている(次ページ囲み記事に詳細)。

 データを分析して明らかになったのが、人件費、女性管理職比率、障がい者雇用率、健康診断受診率など、人的資本に関する取り組みの多くでPBRの向上が見られたことだ。また、研究開発費や医療用医薬品の承認取得数など、研究開発に関する取り組みでも効果が見られた。

人材投資は将来利益

 この結果を受けてエーザイは、営業利益に人件費と研究開発費を加えた金額を、ESGを踏まえた利益「ESG EBIT」と名付けて開示した。通常、損益計算書では、人件費と研究開発費は利益から差し引く。ところがESG EBITでは、これらを将来利益と見なして足し戻す。

 同社は投資家との対話(エンゲージメント)において、このESG EBITの活用を開始した。

■ ESGを踏まえた営業利益を算出(2019年度)
EBITは利払い・税引き前損益の略。通常、人件費や研究開発費は利益から差し引くが、これらを将来利益とみなして足し戻す。ESGを踏まえた売上総利益④=①-②+③、ESGを踏まえた営業利益⑩=④-⑤-⑥+⑦+⑧+⑨
(出所:エーザイの統合報告書2020を基に作成)

 エーザイの19年度の営業利益は1255億円で、20年度は880億円と減益の見通しだ。「コロナの影響を受けて業績が悪化するのか」。投資家のこうした質問に対して柳CFOはこう反論する。「ESG EBITを見ると19年度は3678億円で、20年度も3600億円台を想定している。これはコロナ禍においても人的資本と研究開発への投資を緩めず、将来利益を追求するという意思の表れだ」。

 柳CFOは、さらにこのように迫る。エーザイのPER(株価収益率)は現在40倍程度と割高感がある。しかし、ESG EBITを踏まえた利益で考えるとPERは13倍程度で日本企業の平均を下回る。「こう考えるとエーザイ株はまだ割安と見なせるのではないか」。