親子上場を解消して、経営の迅速化と訴訟リスクの回避を狙う。この買収劇は、多くの日本企業が抱えるガバナンスの課題を示している。

 通信最大手のNTTが、4兆2500億円を投じて子会社のNTTドコモを2020年度内に完全子会社化すると発表した。一般株主が持つ3割強の株式をTOB(株式公開買い付け)で取得する。国内企業に対するTOBとしては過去最大だ。NTTの澤田純社長は20年9月29日の会見で、「グローバルレベルのダイナミックな経営環境に対応していく。そのために意思決定の迅速化が不可欠」と語った。

NTTとNTTドコモが2020年9月29日に開催した合同会見の様子。NTTの澤田純社長(左)と、NTTドコモの吉澤和弘社長(右)
(写真:NTTドコモ)

 今回のケースは、海外勢との競争や携帯電話料金の引き下げの視点で語られることが多い。だが、日本企業が抱えるガバナンスの課題を象徴するものとしても捉えられる。そして、21年に予定されているコーポレートガバナンス・コード改訂の方向性とも一致する。史上最大の買収劇を、ガバナンスの視点で見てみる。

利益相反の問題を解消

 以前より、親会社と子会社が上場する「親子上場」については、ガバナンスの問題点が指摘されてきた。親会社の株主と子会社の株主の利害が対立する「利益相反」の懸念があるからだ。NTTによるドコモ買収は、この問題の解消を狙ったものでもある。

 子会社のドコモ株主から見ると、親会社のNTTが自らの利益を優先させることで、ドコモ株主の利益を損なう可能性がある。19年8月にアスクルの親会社のヤフーが、アスクル経営陣の退陣を求めた際、「支配的株主の横暴」だとしてアスクル株主やガバナンス関連組織から批判を浴びた。NTTは、こうした事態に陥る前に、資金を投じてドコモ株主に「立ち退いてもらう」形だ。

 一方、親会社のNTT株主から見ても問題がある。グループ企業が稼いだ利益をグループ外に流出させているからだ。NTTはドコモ株式の66%を保有しており、ドコモの利益の3分の1は「非支配株主持ち分」となって社外に流出する。20年3月期のドコモの営業利益は約8547億円で、NTT株主から見ると約2800億円の利益がグループ外に出ていることになる。ドコモを100%子会社化することにより、この流出分を取り込める。

■ 利益相反を解消しグループ経営の機動力を確保
親子上場は、少数株主である子会社の株主と、多数株主である親会社の株主と利害が対立する。NTTは、NTTドコモを完全子会社化することによって、そのリスクを解消した

 次世代通信規格「5G」やその次の「6G」で海外の競合と戦うには、迅速な経営判断が不可欠となる。このとき、「あちらを立てればこちらが立たず」という利益相反の状態は、激しさを増すグローバル競争において命取りになりかねない。

 米国では、30%以上の株式を持たれている上場会社は50社程度で、上場会社全体の約1%である。米国では株主が損害を被ったときに賠償を求めるケースが多く、親子上場による利益相反は株主訴訟の危険性をはらむからだ。

 一方、東京証券取引所によると、実質的な支配力を持つ株主を有する日本企業は19年時点で777社あり、上場企業の21.4%を占める。海外の機関投資家から、親子上場解消のプレッシャーが高まっている。