IIRC、SASBなどが協調

 ESG投資の広がりとともに非財務情報の開示が進んでいるが、世界共通の基準や指標が整備されていないことが企業や投資家の悩みの種になっている。現在は、複数の団体が策定した非財務情報の開示基準やフレームワークがあり、指標が乱立した状態になっている。

 この混乱を解消しようと、異なる団体が策定した基準の整合性を取ろうとする動きもある。20年9月、国際統合報告評議会(IIRC)やサステナビリティ会計基準審議会(SASB)、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)など、主要5団体が協調すると発表した。今後、共同ガイダンスの策定などに取り組む。

 オムロンサステナビリティ推進室の松古樹美担当部長は、「様々な基準が収れんされるのに5年はかかるだろう。それまでの間、ステークホルダーは何を見ているのかを基に、自社なりの基準をもってマテリアリティの選定や情報開示を考え続けるしかない」と言う。

 企業は共通に使える基準が整備されるまで、試行錯誤を続けることになりそうだ。

世界経済フォーラム日本代表に聞く
長期視点に立つ経営を促す
江田麻季子氏
江田麻季子氏
世界経済フォーラム(WEF) 日本代表(写真:世界経済フォーラムJapan)

 2020年9月、WEFはESG指標を「推奨」という形で公表した。目的は、企業経営がシェアホルダー(株主)資本主義からステークホルダー資本主義への移行を求められる中、それを実践している企業を正当に評価することにある。長期的なビジョンを持ち、持続可能な開発目標(SDGs)にいかに貢献しているかを測定するための普遍的な指標を目指した。

 約1年間にわたる議論と開発プロセスを経て、21の中核(コア)指標と34の拡大指標を開発した。白紙から作り上げるのではなく、世の中に既にあるGRIやSASBなどの指標を活用し、バンク・オブ・アメリカと世界の4大会計事務所(デロイト、EY、KPMG、PwC)が共同で作業を行った。

 指標の特徴は、「ガバナンスの原則」(Principles of Governance)、「プラネット」(Planet)、「人」(People)、「繁栄」(Prosperity)という「4つのP」を柱にしていることだ。このうちプラネット、人、繁栄の3つは、2015年に国連が公表した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中でSDGsの重要な要素として定義されている。

 指標には、短期的な利潤だけを求めるのではなく、長期的な視点で企業経営に取り組むべきというメッセージが反映されている。

 例えば、「繁栄」については「雇用と富の創造」というテーマを設け、グローバルな事業活動で生み出された経済価値をどのように分配しているかを細かく記述するように求めている。具体的には、収益と費用、従業員の賃金と福利厚生、株主への配当、税金、コミュニティへの投資などだ。

 最近、グローバル企業が税金を適正に支払わなかったり、一部の経営者が一般社員に比べて破格の報酬を得ていたりという事象が起きている。こうしたことが社会の格差、分断を引き起こす原因になっていることから、それを抑止するための指標として組み入れた。

 「人」については「将来へのスキル」というテーマを設け、従業員が次世代に必要となるスキルを身に付けるためのトレーニングにどれくらいの時間とコストをかけたかを開示してもらう。従業員のスキルアップこそ、持続可能な社会に向けた好循環を生むために重要という考えを反映したものだ。

 公表した指標は、完ぺきなものを目指したというよりは、スタート地点をつくったと考えている。日本企業はこれまでも、従業員の健康と福祉など「ステークホルダー経営」を実践しているところが多く、これらの指標を組み入れやすいはずだ。ぜひ視座の高い企業経営とSDGsへの貢献に取り組んでほしい。(談)