首相による国の目標表明と前後し、企業も「実質ゼロ」に乗り出した。企業は再エネ調達が日本の競争力を左右しかねないと危惧する。

 2020年10月26日に菅義偉首相が、50年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)を目指すと宣言した。前後して、電力供給ビジネスを手掛ける企業も、大幅なCO2削減や脱炭素化方針を示した。

 電力供給のCO2削減は、国全体の脱炭素化にも欠かせない。20年10月13日、首相宣言に先駆けて国内最大の発電事業者であるJERAが50年の脱炭素化に挑む方針を示したことは国の目標達成の後押しになる。JERAは、東京電力フュエル&パワーと中部電力が出資する発電事業会社で、国内の火力発電の半分(設備容量ベース)を保有している。

国内電力の転換が始まった

 「火力ばかりのJERAがなぜCO2排出ゼロを目指すのか。実質ゼロを宣言する企業が世界で増えたため、グローバルで事業展開する当社も必要と考えた」。20年11月25日の会見でJERAの小野田聡社長はこう話した。同社は30年までに非効率な石炭火力をすべて停廃止する。また、高効率の石炭火力では、CO2を排出しない燃料として使えるアンモニアや水素を活用する。洋上風力を中心に再生可能エネルギーの開発も進めるという。

 アンモニアを石炭と混焼する実証試験では事業性評価が進んでいる。貯蔵タンクや燃焼バーナーなど設備の準備に3年程度を要するが、20年代前半には愛知県の碧南火力発電所で実証を始める考え。30年代前半に混焼率を20%に高め、40年代にはアンモニア100%で発電する設備の運用を目指す。水素と石炭の混焼も実証し、50年までに混焼率を高める。

石炭火力発電設備の実機を使ったアンモニア混焼実験の候補地であるJERAの碧南火力発電所
(写真:JERA)

 とはいえ、アンモニアや水素の利用には、供給量を確保しコストを下げるためのインフラが整わなければならない。これらが首尾よく実現したとしても「日本やアジアでは50年時点でも従来型の火力発電の利用が残り、CO2排出をゼロにできないだろう」と小野田社長は予想する。これを実質ゼロにするため「CO2の回収・利用・貯蔵(CCUS)のような技術や、植林による吸収といった代替手段の活用を考えている」と言う。

 企業に自発的な温室効果ガス削減目標の設定を求める「SBTイニシアチブ」は実質ゼロ目標に関する指針を作成中だ。火力発電によるCO2のCCSは削減手段に認められるか不透明である一方、森林吸収は推奨される見通し。実質ゼロを目指す企業を顧客に抱えるJERAは、国際イニシアチブの動向を考慮する必要もありそうだ。

 火力発電設備を製造する企業にも波紋が広がる。東芝は20年11月10日、30年度までにバリューチェーン排出量を19年度比で50%削減する目標を発表した。これはパリ協定の1.5℃目標に貢献するとして、SBT認定を受けた。