聞き手/杉山 俊幸(日経BP 総合研究所主席研究員)

創業60年を経て、「『わが家』を世界一 幸せな場所にする」というグローバルビジョンを掲げる。ZEHなどで脱炭素社会をリードするとともに、経営目標に生物多様性保全を組み込み推進する。

「『わが家』を世界一 幸せな場所にする」というグローバルビジョンの目指すところからお聞かせください。

仲井 嘉浩(なかい・よしひろ)
仲井 嘉浩(なかい・よしひろ)
積水ハウス 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO
1965年京都府生まれ。88年に京都大学工学部を卒業後、積水ハウス入社。2012年経営企画部長、14年執行役員経営企画部長、16年取締役常務執行役員経営企画・経理財務担当、18年代表取締役社長を経て、21年4月より現職(写真:太田 未来子)

仲井 嘉浩 氏(以下、敬称略) 当社では1960年の創業から30年間を第1フェーズとして「安全・安心」を掲げて災害に強い住宅造りを追求し、次の30年では第2フェーズとして断熱性やバリアフリーといった「快適性」を提供してきました。その次の30年で、積水ハウスがどういった価値を創造していくのかと考えた時に、人生100年時代に「幸せ」を提供できる企業であろうと表明したものです。

 100年もの長い人生を心豊かに暮らすためには、現預金や不動産といった有形資産だけではなく、健康や友人、家族とのつながり、様々な体験・スキルといった無形資産が大切だと考えます。

 そこで当社は、「幸せ」を因数分解して「健康」「つながり」「学び」という3つの軸から当社独自の家造り「プラットフォームハウス構想」を立ち上げました。

3つの軸のそれぞれについて、具体的に教えてください。

仲井 まず「健康」については、既に2020年12月から実証実験を始めた在宅時急性疾患早期対応ネットワーク「HED-Net」があります。

 現在、家の中でお亡くなりになる方が年間約7万人います。転倒や転落、溺死という事故もありますが、脳卒中や心疾患という急性疾患も大きな死因に挙げられます。就寝中に発病し発見が翌朝になったために重症化したり亡くなられていたりするケースも少なくありません。

 自動車業界は技術的な努力で、交通事故による死者数を大幅に減少させました。そこで住宅業界もやれることがあるのではないかということから、健康を見守る家造りを進めています。

 具体的には、寝室などの天井に生体センサーを設置し、心拍数や呼吸の異常をいち早く検知しようというものです。住宅メーカーの矜持(きょうじ)としてウエアラブル端末ではなく、住宅設備から非接触で検知できるように開発中で、データの取得状況、異常判定プログラムの精度、システム稼働状況などの検証を進めているところです。

■ プラットフォームハウス構想の概念図
■ プラットフォームハウス構想の概念図
出所:積水ハウス
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 急変を検知した時にはまず、当社の緊急通報センターのオペレーターが安否を確認した上で救急へ出動を要請します。通報センターで玄関ドアの遠隔解錠するまでを行う仕組みは画期的だと、早い時期の実用化を望まれています。思いがけないところではホテル業界からも期待が寄せられています。

 次に「つながり」については、例えば、遠隔地にいる家族があたかもそばにいるように過ごせたり、鮮明な画像でオンライン診療を受けられたり、さらにはオンライン学習で学校とつながったりと、ITを活用して家と外がつながるサービスを開発していきたいと考えています。

 そして、3つめの「学び」とは、家にいながらにして美術館や博物館を巡ることができるようなサービスです。このバーチャルな体験が刺激となって、リアルな旅に出かけるきっかけになることもあるのではと考えています。これまでの家はプライバシーを守るため、閉じる方向へ向かった進化でしたが、これからの家はむしろ、体験したり発信したりと、外とつながる方向への進化が求められるのではないかと思います。