聞き手/桔梗原 富夫(日経BP 総合研究所フェロー)

2050年までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラル実現を目指す。社会課題解決のため、人権の尊重、多様な人材の活躍も進め、イノベーションを促す。

2021年11月の第2四半期決算説明会でESG経営を進めることを表明し、「プロジェクトChange」の進捗状況についても説明されました。

井手 博(いで・ひろし)
井手 博(いで・ひろし)
IHI 代表取締役社長兼最高経営責任者
1961年生まれ。83年石川島播磨重工業(現IHI)入社。12年営業・グローバル戦略本部グローバル戦略部長、13年シンガポールJEL社長、19年IHI常務執行役員資源・エネルギー・環境事業領域長、20年代表取締役社長 最高執行責任者を経て、21年4月代表取締役社長 最高経営責任者(兼)戦略技術統括本部長(写真:大槻 純一)

井手 博 氏(以下、敬称略) コロナ禍で、主力事業である航空エンジンが衝撃的な影響を受けるなど事業環境が全く変わってしまいました。そこで20年11月に、環境変化に即した事業変革の取り組みとして「プロジェクトChange」を公表しました。次の中期経営計画は23年度に始まりますが、そこに向けて強い経営基盤をつくるため、「ESGを価値観の軸においた社会・環境に配慮した適切な経営」に取り組むことに力点を置いています。

 IHIの経営理念は「技術をもって社会の発展に貢献する」「人材こそが最大かつ唯一の財産である」です。これはESGの理念を先取りしたものとの自負があります。ペリー来航をきっかけに欧米列強に対抗する大船建造のために創業してから168年、 事業を通じて世界の社会課題解決に取り組んできました。今回、改めて整理し「IHIグループのESG経営」として表明しました。

 プロジェクトChangeの進捗ですが、収益基盤のさらなる強化に向けてライフサイクルビジネスの拡大、事業構造の変革、成長事業の創出はそれぞれ順調に進んでいます。固定費や棚卸資産の削減、医薬プラント事業の切り離しといったことも進めてきました。22年度の営業利益率8%以上という目標は今のところ変更するつもりはありません。

「50年までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現する」と宣言されました。

井手 カーボンニュートラルの実現にはCO₂排出量の削減が必要で、それには2つの考え方があります。

 我々が力を入れているアンモニア利用や水素利用は実現までにまだ時間がかかります。これらの新技術はトランスフォーメーション(変革)と位置付けています。

 一方、それが実現するまでのトランジション(移行)では、既存技術によるCO₂削減を進めます。インドネシアでは石炭火力発電の高効率化改修工事のお手伝いをしていますし、北米では太陽光発電の需給調整を蓄電池と当社のエネルギー・マネジメント・システム(EMS)で実現しています。航空エンジンでは複合材料やセラミックスを採用し、軽量化による燃費向上を進めています。ドイツの燃料電池車にはターボコンプレッサーが搭載されるなど、様々な分野でIHIの技術が利用されCO₂削減に貢献しています。

 そしてトランスフォーメーションのフェーズで言えば、JERAの碧南火力発電所4号機(出力:100万kW)で24年にアンモニア20%混焼を目指す実証事業を共同で行います。他に自社の天然ガス(LNG)タービン(2000kW級)で70%のアンモニア混焼に成功しています。今後徐々に混合比率を高めていく予定です。アンモニアを利用した発電を社会実装するためには、バリューチェーンを構築することも必要になります。

 いずれにしても様々な課題がありますので、トランジションの時間をどう利用して、そのハードルを越えていくかが試されます。

■ IHIの2050年カーボンニュートラル宣言
■ IHIの2050年カーボンニュートラル宣言
「トランジション」と「トランスフォーメーション」の2つのフェーズでカーボンニュートラルを実現する
(出所:IHI)