聞き手/斎藤 正一(日経ESG経営フォーラム事務局長)
2020年10月、「YKKサステナビリティビジョン2050」を発表した。50年までに温室効果ガス排出ゼロを掲げ、サステナブルなファスニング事業を目指す。
新型コロナウイルス感染拡大が続いています。事業にはどのような影響が及んでいますか。
松嶋 耕一 氏(以下、敬称略) 私たちは世界72カ国・地域でファスニング事業を展開していますが、過去に経験したことがないほどグローバル全域で影響を受けています。商業施設や店舗が閉鎖され、人の移動や生産活動が制限されたのに伴い、アパレルの領域を中心に消費が減速し、2020年度第1四半期の売上高は前年の4割減となりました。
その後、中国で一部需要が回復し、他の地域も回復傾向にはあります。Eコマースで落ち込みをカバーしているお客様もいます。ただし感染第2波が襲うなど、依然として先行きの不透明感は高い。状況を見ながら適切に対処していきたいと考えています。
「納期」もサステナブルの要素に
新型コロナによってESG経営に変化が生じる面はありますか。

1968年生まれ。91年4月YKK入社。98年2月より2017年3月まで欧州、中国、アジアの海外事業会社に勤務。17年4月副社長 ファスニング事業本部長、18年7月より現職(写真提供:YKK)
松嶋 ファッション業界は、近年、様々な協定の締結や憲章の制定が進むなどサステナビリティ実現に向けた動きが活発化しています。我々もそれらに対応しながら事業を進めてきました。
そこへ新型コロナが襲い、業界全体が一層サステナビリティ重視に傾いたと感じています。消費者の意識や行動の変化を受け、今後、我々のお取引先でも売れるものをタイムリーに作り在庫を減らす動きが加速するでしょう。納期のリードタイム短縮もサステナブルの要素の1つとして対応が必要と認識しています。
コロナ渦の20年10月、「YKKサステナビリティビジョン2050」を策定し発表しました。
松嶋 創業以来、YKK精神「善の巡環」に基づき事業を展開してきました。
多くの取引先が50年のカーボンニュートラル実現を目指す中、サプライヤーのYKKもそれに対応する必要があると、50年までの温室効果ガス排出ゼロを目標に掲げています。「つくる責任つかう責任」など、YKKが影響を与える可能性が大きい10項目のSDGsを達成すべく、「気候」「資源」「水」「化学物質」「人権」の5テーマで、目標とそれに向けたロードマップを作成しました。
19年、グループとして「YKKグループ環境ビジョン2050」を発表しましたが、その達成に向け、ファスニング事業での取り組みに落とし込んだのが今回のサステナビリティビジョンです。ファッション界のキーパーソンが集まり、サステナビリティの方向性や課題を話し合う「コペンハーゲンファッションサミット」の開催に合わせて発表しました。
「善の巡環」という精神を事業活動の基本としていますが、常に新しい価値を創造し、事業を発展させることが取引先の繁栄にもつながり社会貢献できるという考え方です。これはまさにサステナビリティに通じる精神です。サステナビリティを経営の中心に据え、技術開発や生産活動など全社的な取り組みによって目標達成を実現したいと考えています。