聞き手/酒井 耕一(日経ESG発行人)

受託財産にかかわる運用資産に対して、責任投資の取り組みを進める。専門性の高いサービスを提供するフィデューシャリーとして社会課題解決に挑む。

投資の意思決定プロセスにESGへの取り組みを反映させるという責任投資原則(PRI)に、早い段階で署名されました。

成川 順一(なりかわ・じゅんいち)
三菱UFJ信託銀行 専務執行役員
1963年生まれ。85年東京大学工学部卒業後、三菱信託銀行入社。2008年債券運用部長、11年執行役員株式運用部長兼債券運用部長、13年常務執行役員受託財産副部門長兼三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役員を経て、17年6月より専務執行役員アセットマネジメント事業長(写真:村田 和聡)

成川 順一 氏(以下、敬称略) 責任投資原則は2006年に国連のアナン事務総長(当時)が提唱した原則です。投資にESGへの取り組みを反映し、長期的な投資収益の向上とリスクの低減を目指すためのものです。三菱UFJ信託銀行は、PRIの発足と同時に署名しました。

 信託銀行は名前の通り、お客様の大切な財産を「信じて託していただく」ので、もともと長いお付き合いをするためのDNAが強い組織体です。その組織の特徴がPRIの概念にフィットしたのです。

 また、当時はSRI(社会的責任投資)ブームで、フィランソロフィー(社会貢献)、寄付といった活動が盛んでした。その頃は社会に貢献しようという意識が強かったのですが、現在はそうした活動と経済活動を両立させるという流れになっています。当時から環境問題やダイバーシティへの意識を高く持ち、いち早くPRIに署名し、活動の幅を徐々に広げてきたのは、経営判断の1つだったのだと思います。

SRIやフィランソロフィーがESGに進化したのは、どのような問題意識の表れだとお考えですか。

成川 寄付とインパクト投資を比べてみると、波及効果はインパクト投資の方が大きいといわれています。ESG的色彩が強ければ株の資本コストが下がるでしょうし、ボラティリティ(変動性)が小さくなれば投資家は安心して株を購入できます。そして好循環が生まれていく。そんなロジックが働いたのでしょう。

最近では、フィデューシャリー・デューティーという言葉が認知されてきています。

成川 フィデューシャリー・デューティーは、「他者の信任を得て一定範囲の任務を遂行するべき者(フィデューシャリー)の責任」と捉えられています。信託の受託者以外に、弁護士や医者など高い専門能力を持って働く人たちにも使われます。

 株式投資を例にとると、財務諸表だけで株価が決まるわけではなく、非財務の情報も考慮されます。そこにはもともと、専門性の高いサービスを提供するフィデューシャリーが存在しました。そして、新たに環境問題や新型コロナウイルス、不祥事といった問題が生じると、メディアの報道でフィデューシャリーにスポットが当たるようになってきた。活動範囲は広くなり、その責任はますます重くなっているのが現状です。

4つの「重要なESG課題」

「重要なESG課題」として「ガバナンス体制」「情報開示」「気候変動」「健康と安全」を選定しています。

成川 ESGを通じた企業価値向上のために投資先と対話すべき内容を、「重要なESG課題」として定めています。20年はその見直しをするにあたり、選定のプロセスを向上させました。社内外の知見とデータを活用しながら、網羅性と先見性を向上させたのです。

 具体的には、「社会における重要度」と「三菱UFJ信託銀行の運用における重要度」の課題を選定し、それらをマテリアリティ・マトリクスにマッピングしました(下図版)。縦軸に「社会における重要度」、横軸に「三菱UFJ信託銀行の運用における重要度」をとり、最も重要度の高い課題として「ガバナンス体制」「情報開示」「気候変動」「健康と安全」の4つに絞り込みました。

■ 重大なESG課題を設定
出所:三菱UFJ信託銀行
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