成川 「健康と安全」はコロナ禍の今まさに重要な課題で、リモートワークの重要性が高まる中、労働安全施策や残業時間などが我々のESGスコアの評価項目になっています。企業がどう取り組んでいるか、アナリストやファンドマネージャーが取材して確認します。

 ただ、離職率などでみると、その値が小さければ本当にいいのかどうかは判断しにくい。愛社精神が強くて離職率が低いということならば、もしかしたら変革を阻害する要因にもなりかねません。今後、ジョブ型雇用が取り入れられてくれば、離職率というファクターは変わるでしょう。

 ESGのうち、特にS(社会)についてはKPI(重要業績評価指標)で判断するのは難しく、どう定義するかは新しい課題だといえます。

ジョブ型雇用の導入で高度専門職にもストックオプションを付与することについては、どうお考えですか。

限定された分野を担当する専門職となると、難しいかもしれません。株価というのは特定の分野だけを見て動いているのではなく、全体を反映しているわけですから。会社の規模、業種によって考え方は変わってくるはずです。

 私見ですが、日本の企業文化ではこれまで、どちらかというと社内ベンチャー中心でした。しかし、これからは米国のように社外ベンチャーを育てる方向に変えていったほうがいいのかもしれません。その時には当然、ストックオプションという発想もあると思います。

議決権行使の考え方

株主が議決権を行使することによって、経営に影響を与えています。最近の変化をどう見ていますか。

成川 14年、責任ある機関投資家の諸原則を定めた日本版スチュワードシップコードの受け入れを開始しました。議決権行使を通じて、ESG課題の解決につなげていきたいと考えています。

 議決権行使が投資先企業の企業価値向上に資するものとなるように、「議決権行使に係るガイドライン」を少なくとも年に1回は見直しています。これまで「社外取締役が複数必要」などとしていたのを、20年度は「社外取締役が複数かつ取締役総数の3分の1以上必要」と改定しました。議決権行使の基準を工夫したり、エンゲージメント(対話)を強めたりしています。最近の傾向としては、発行体様の関心が以前より強くなり、議決権行使にあたり直接対話をする件数は、以前よりも約2倍に増加しています。

企業の方はどんなテーマについて相談されるのですか。

成川 以前は議案について株主総会の1カ月ほど前から話を始めていましたが、最近は半年くらい前から相談されるようになりました。総会で賛成率の低かった議案について今後どうするかなど、否決可決に関係なく、市場の声であることを意識して行動されるケースが増えていると実感しています。

 TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)関連では、どんな開示をするべきか、統合報告書にESGの非財務情報をどのように記載すれば投資家に伝わりやすいかといった相談が寄せられます。また、以前なら今期利益とROE(自己資本利益率)、セングメント別の利益といった数字の話が大半でしたが、今はコロナ禍でのテレワークやワークライフバランス、社内満足度といった話題が多くなっています。

 当社では今般、ESGの課題を明確にして対話を実施しており、全体の約4割がESG関連の対話となっています。

ROEを高めていくという財務の改善と、非財務の充実の両立が求められているということでしょうか。

成川 結果的にはROEという財務に反映されなければなりません。しかし長期的に見れば、非財務もいずれ財務に影響を及ぼすということです。労働環境が悪ければ人は集まらず、サステナブルではないし、どこかで不祥事が起こるかもしれない。当然、投資家はその点を資本コストに勘案しますから、その分を割り引かれて株価は下がるというロジックになります。

■ 財務と非財務の経営要素の概念図
出所:三菱UFJ信託銀行
[クリックすると拡大した画像が開きます]