聞き手/酒井 耕一(日経ESG発行人)

「三方よし」を柱に生活消費関連事業を通じて人びとの日常生活を守り、社会基盤を支える。エネルギー事業にも注力し、中長期で環境問題の解決に取り組む。

小林 文彦(こばやし・ふみひこ)
伊藤忠商事 代表取締役 専務執行役員 CAO
1980年伊藤忠商事入社。2010年執行役員、総務部長、11年人事・総務部長、13年常務執行役員、15年CAO兼人事・総務部長、取締役常務執行役員、16年CAO、17年代表取締役、専務執行役員、CAO、18年CAO、CIOを経て、19年より現職(写真:村田 和聡)

2020年4月に「三方よし」を新たな企業理念に据えましたが、理由を教えてください。

小林 文彦 氏(以下、敬称略) 「売り手よし、買い手よし、世間よし」と広く世の中に認識されている「三方よし」は、約160年前に創業者の伊藤忠兵衛が、店員に伝えていた考え方です。この「三方よし」の精神は、今も当社の社員にとって身近であり、生き続けています。SDGsは今、企業経営にとって避けて通れない重要な概念になりましたが、当社に受け継がれてきた「三方よし」はSDGsを体現しているのではないか。そのような思いで、企業理念を「三方よし」に定めました。株主利益一辺倒から、ステークホルダー全体の利益追求へと世の中の流れが変わるなか、「三方よし」を経営の中枢に据えることは、時代に符号していると考えています。

「三方よし」を実際にどのように企業経営に反映させていますか。

小林 「三方よし」を実現するための企業行動指針は「ひとりの商人、無数の使命」、つまり現場のニーズをくみ取ってこそ成り立つものであるということ。誠実さや、互いの信頼を土台にしています。会社から言われたことをするのではなく、お客様に対し、それぞれの現場で「三方よし」を胸にミッションを尽くす。それが当社らしさでもあります。

出勤率を柔軟に変動

企業戦略である「面の拡大とバージョンアップ」について、世界的に多角的な事業を進めるなか、創業時の精神である「三方よし」をどのように満たしていきますか。

小林 拡大する「面」の領域として、一般の人たちの日常生活、すなわち社会の基本インフラを支えるという、当社の特色ともいえる業態があります。社員の半数以上が生活消費関連部分にかかわっている。コロナ禍で医療従事者の方たちが大きな役割を果たしていますが、当社もまた、世の中がどのような状況になっても人びとの日常生活を全力で守っていかなければいけない。食料、情報、金融はじめ、CVS(コンビニエンスストア)事業も含めて、こうした社会インフラの面を拡大していくことが重要な企業戦略であり、ミッションでもあります。