トヨタの取り組みではCMやインターネットなどで情報発信する「トヨタイムズ」、コネクティッド・シティの実証都市として静岡県裾野市に建設する「Woven City」など大がかりなプロジェクトに注目が集まります。その一方で各職場で進む地道な取り組みの重要性をどう考えますか。

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「SDGsへの使命感が変革を後押し」(撮影:村田 和聡)

大塚 大規模なプロジェクトに携わる社員はもちろん、モチベーション高くSDGsに貢献するという高い志を持って仕事をしています。一方、その他の社員も取り残された気持ちになることなく、全員がいろいろなやり方で社会のために良いことをやることが大事だと思っています。

 今、従業員は自分たちが住む地域への貢献として、「恩返し活動」を展開しています。ゴミ拾いでも自治会の役員を務めることでも何でもかまわない。地域に何か1つ恩返しをしようという活動です。同様の発想で、従業員が社会課題に向き合う仕組みを作りたいと考えています。

 注目しているのは仕事のスキルを社会貢献に生かす「プロボノ」です。私が知っている例で、あるエンジニアが、障がいのあるお子さん向けポータブルチェアの開発をサポートしたケースがあります。部品点数の削減、作り方の工夫などをアドバイスし、コストを5分の1に削減することに成功しました。

 仕事を離れて自らの持つスキルで社会課題に向き合い貢献したという経験は、個人の成長にもつながり、その後の仕事にも還元されるはずです。こうしたポジティブなサイクルを生み出したいと思います。

個人の“越境”が必要

自動車産業に「CASE(コネクテッド、自動車、シェアリングとサービス、電動化)」の波が押し寄せる中、トヨタは「モビリティカンパニー」への転換を図っています。サステナビリティへの取り組みは、その実現を推進するものですか。

大塚 トヨタは「わたしたちは、幸せを量産する。」というミッションと「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える。」というビジョンを掲げています。我々のパーパスは、これまでの枠組みの中の自動車メーカーではなく、「移動」という価値を提供すること。その実現には既存の壁を取り払い、外の組織と連携すること、また個人が“越境”して仕事の領域を広げることが必要です。SDGsへの使命感は越境の原動力となり、モビリティカンパニーへの変革を後押しすると思います。

 既に越境して動き始めている人もいます。福祉車両の「ウェルキャブ」を設計するエンジニアは、「高齢者が乗り降りしやすいクルマを開発したけれど、地域に高齢者を乗せて運転するドライバーがいない」という問題に気づきました。そこで、会社を定年退職した方にボランティアでドライバーを務めてもらい、高齢者の移動のお手伝いをしていただく仕組みを構築しました。全国の市町村を行脚し、ウェルキャブを使った運行やサービスをパッケージにしたビジネス提供を提案しています。かつて技術部の責任者という立場で、ずっと設計一筋だった方が、そこまで活動の幅を広げているのです。

「Youの視点」で情報発信

豊田章男社長は20年5月の決算発表で「『Youの視点』を持つ人財を育てること」が使命だと宣言しました。この考え方は社内に浸透していますか。

大塚 はい。社長は以前から「我々は豊田綱領にある『産業報国』の精神で事業を営んできたはずなのに、それを忘れているのではないか。『Iの視点』になっていないか」と言い続けていました。最近は社内でも「『Youの視点』を持った取り組みか」「『Youの視点』で考え直してみた」という発言が頻繁に飛び交うようになっています。

 私たち全幹部社員は社長から「聞く人の立場に立って初歩から話をする訓練をしなさい」と繰り返し言われています。私自身も専門的になりすぎたり、自分が伝えたいことばかりに偏ったりすることなく、「Youの視点」で基本的なことからファクトを集めて情報を発信するよう心がけています。

■ 「Youの視点」で考え、解決に向けて取り組む
■ 「Youの視点」で考え、解決に向けて取り組む
豊田章男社長はSDGsの推進など様々な場面で力強いメッセージを打ち出している
(写真提供:トヨタ自動車)

豊田社長自身も「トヨタイムズ」に登場するなど、トップの高い発信力がトヨタの強みだと思います。社外から反響はありますか。

大塚 他企業のトップや投資家、従業員の家族など幅広い方たちから「トヨタイムズを見たよ」という声をいただきます。ステークホルダーに対して個別のエンゲージメントも行っていますが、自分たちが大事に思うことをストーリーで伝えることの重要性も感じます。