聞き手/酒井 耕一(日経ESG発行人)

ESGに関する市場の認識や投資の流れはこの1年で様変わりした。金融機関として、持続可能な社会の創造に資する金融サービスの提供に寄与する。

野村グループはESG投資に力を入れています。ESGを取り巻く現状をどう認識していますか。

飯山 俊康(いいやま・としやす)
野村證券 代表取締役副社長
1965年生まれ。87年早稲田大学卒業後、野村證券入社。2012年野村證券執行役員、インベストメント・バンキング担当、15年野村ホールディングス執行役員、アジア地域担当、19年野村證券専務、野村資本市場研究所社長、野村アジアパシフィック・ホールディングス会長。20年4月、野村證券代表取締役副社長、野村資本市場研究所代表取締役社長、野村サステナビリティ研究センター理事長、野村アジアパシフィック・ホールディングス代表取締役会長、ジャパン-チャイナ・キャピタル・パートナーズ取締役会長、野村ホールディングス執行役員中国委員会主席を兼務(写真:村田 和聡)

飯山 俊康 氏(以下、敬称略) 市場や投資環境はこの1年で急速に変化しました。私は中国とのやり取りが多く、最近、中国の大手メディア主催の「ESGフォーラム」で、野村グループのESGへの取り組みや日本の動向を講演しました。中国でもESGに対する関心は急速に高まっています。

 中国は2060年までにCO2排出量を実質ゼロにすることを表明し、ほかの国もカーボンニュートラルを達成する時期など具体的な目標を示しています。米国では民主党のバイデン政権が誕生して環境重視に舵を切り直し、世界中が競争のように環境問題に取り組んでいます。

 ESG投資の果たす役割はますます重要になります。温暖化など気候変動だけでなく、災害や感染症、経済格差の拡大など、人類が直面するESGのさまざまな課題が、この1年で浮き彫りになりました。

 一方、企業経営でも世界的に株主至上主義が見直され、ステークホルダー主義への移行が進んでいます。

 日本企業の間では、江戸時代から明治時代にかけて、近江(現在の滋賀県)に本店を置いて日本各地で活躍した近江商人の伝統である「買い手よし、売り手よし、世間よし」の「三方よし」の精神に立ち返ろうとする機運が出てきているように感じます。

 ただ、投資家は「ESG戦略を標榜して『三方よし』なら、ROEなどのリターンが低くても受け入れる」と言っているわけではありません。ESG投資で三方よしを実現しながらROEを向上していくことは引き続き大きな課題です。

新しい産業を創り出す機会

政府は「カーボンニュートラル」を目指すなど、環境問題に関する流れも変わってきています。

飯山 菅義偉首相は、脱炭素社会の実現に向けて「50年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という、いわゆるカーボンニュートラル宣言をして、脱炭素政策による成長戦略の実現を目指しています。

 ここでは、化石燃料からグリーンエネルギーへの移行を技術開発(R&D)のコストと考えず、社会構造の改革や、新産業の創出など、新しい成長市場を創り出す機会と捉えることが重要です。

 これまで日本企業は、内部留保を積み上げ、企業の現預金残高は20年9月末で過去最高の309兆円に上ります。コロナ危機による経済活動の急激な収縮に耐える場面を想定すれば、内部留保自体が悪いわけではありません。しかし、現預金の伸び率が投資を大きく上回ることは問題でしょう。