聞き手/斎藤 正一(日経ESG経営フォーラム事務局長)

三菱ケミカルホールディングスは中長期経営基本戦略「KAITEKI Vision 30」を策定した。2050年から逆算して、30年のあるべき姿を明確化、ESG経営に取り組む。

2020年2月に中長期経営基本戦略「KAITEKI Vision 30」を発表しました。狙いを教えてください。

池川 喜洋(いけがわ・よしひろ)
三菱ケミカルホールディングス 執行役常務 経営戦略部門長
1960年生まれ、石川県出身。1983年一橋大学商学部卒業後、三菱化成工業入社。2015年三菱ケミカルホールディングス執行役員経営戦略室長(総合・ケミカル)に就任、18年執行役常務経営戦略部門長、19年4月三菱ケミカル取締役を兼務(写真:中島正之)

池川 喜洋 氏(以下、敬称略) 従来、中期経営計画は5年単位で策定してきました。しかし、現代社会には気候変動などの社会リスクや社会課題が山積みになっています。また化学業界を取り巻く環境も変化し、リニアに成長する線形経済から循環経済(サーキュラーエコノミー)へと潮目も変わっていきます。そうした中では、10年という少し長いスパンで経営戦略を立てる必要があると考えました。

 その際、10年後の30年を見据えるのではなく、30年後の50年にはすべての社会課題が解決された社会が実現するとして、そこを起点にして30年の社会を描き出しました。そして、それに対応するあるべき姿を「KAITEKI Vision 30(KV30)」にまとめ、経営ビジョンとして策定したのです。

内容を具体的にお話し下さい。

池川 3つの要素から成り立っていて、1つめが事業ポートフォリオ改革です。三菱ケミカルホールディングスグループを取り巻く環境をにらんで、成長分野となる事業領域について、技術トレンドとビジネスモデルの両面から絞り込み、ポートフォリオを変えていきます。

 2つめがサステナビリティマネジメントです。2020年10月に菅義偉首相が「2050年にカーボンニュートラル」を打ち出しましたが、ここからも明らかなように、サステナビリティを意識した経営でないと、ステークホルダーから見放されてしまいます。

 TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言によれば、金融機関も環境に配慮した事業でないと融資しないと言い始めています。ESG投資で、機関投資家も環境を意識した投資判断を行うようになっていますので、サステナリビリティを大きな要素として取り入れました。

 3つめが人事制度・組織改革です。長年日本企業を支えてきた終身雇用、新卒一律採用、年功序列型の人事制度について、多様性、専門性、流動性をキーワードに見直さないと、世の中の動きに対応できません。

LCAの進化とCO2削減に取り組む

KV30発表後、国内外でコロナ禍に見舞われていますが、事業にどのような影響を与えていますか。

池川 結果的に、コロナ感染拡大前に中長期経営基本戦略を策定してよかったと思います。50年には現在抱える社会課題が解決されていると規定して、その中間の30年がどうなっているかを考え、KV30を策定しました。その中には感染症リスクも含まれており、予防医療を成長領域の事業として上げています。コロナ禍で、今まで予測されていた社会リスクや社会課題が顕在化することがはっきりしました。気候変動も放置しておけば、科学者が予測している通りになって、事業活動に大きな影響を及ぼすことでしょう。今私たちはそうした現実を突きつけられているのです。

■ すべての社会課題が解決された2050年の社会のイメージ
出所:三菱ケミカルホールディングス

 その上で、コロナの影響は足下のウィズコロナと、その先のアフターコロナの2段階で考える必要があります。今後1~2年のウィズコロナの社会はとても不透明で、GDPは中国だけが伸びていますが、伸びは鈍いですし、それ以外の先進国は軒並みマイナスです。

 ただ、この中でポストコロナ段階に加速しなければいけない課題が見えてきます。抗菌性や非接触、通信デバイスなどが社会ニーズとして顕在化してくるので、それをいち早く事業化することが必須になります。それには技術的イノベーションとビジネスモデル変革というKV30の2つの切り口が欠かせません。