経営の中で、ESGの取り組みをどのように位置づけていますか。

池川 これまで、ESGはガバナンスが大きな要素でしたが、これからは環境や社会も同様に重視されていくでしょう。

 企業価値は今まで財務諸表をベースに、ROE(自己資本利益率)などで評価されていました。しかし、これからは財務諸表で表されない非財務的要素の財務化がESG投資の投資判断の上で重要になっていきます。

 そのために私たちは、独BASFや独ボッシュ、スイスのノバルティスなどのグローバル企業が設立し、大手監査法人4社も加わっているバリュー・バランシング・アライアンス(VBA)に参画しています。

ポートフォリオ改革でESG対応

VBAについて、詳しく教えてください。

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「非財務的価値の財務化実現を目指す」
(写真:中島正之)

池川 VBAではESG投資に対応して、環境・人・社会に与える影響を金額換算し、企業間で比較できるようにする企業価値算出手法とそれに基づく会計基準の策定に取り組んでいます。そこでは企業価値はGVA(粗付加価値)で表されます。税金や金利の支払いは社会への還元なのでプラス評価、CO2や廃棄物の排出はマイナス評価として、金額に換算します。従業員の教育や労働災害、R&Dなども社会的インパクトとして加え、その企業の社会における価値を明らかにします。

 会計基準の完成にはあと3年くらいかかると思われますが、ESG投資の評価基準を定めようと、ほかにもさまざまな団体が取り組みを進めています。その中で、基準が確立してくると、ESG投資も分かりやすい評価ができると考えています。

 その上で、ESGへの対応では、サステナビリティマネジメントの要素が大きく関わってきます。ポートフォリオ改革の中で、社会課題解決のために行う事業を成長領域ととらえ、ポートフォリオの中に位置づけます。そうした意味では、KV30そのもので、ESG投資に対応していくと考えています。

ESGの取り組みのなかで、どんな点に注力していきますか。

池川 ESG指標の重要性も向上してはいるものの、19年のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオを見ても、ESG投資の比率はせいぜい1割強です。世界全体でも3割程度で、残りの7割は企業の経済的なパフォーマンスの評価です。

 ROEが株主資本コストを上回っていないと株価は継続的に上昇していかないと言われる中で、8~9%以上のROEが求められます。そのためには収益の安定性が求められますが、素材の需給バランスによって大きなブレが生じて、ステークホルダーの期待に十分に応えることができていない面があります。

 こうした状況を克服して収益性を安定させるには先進部材など機能商品の開発が必要で、ポートフォリオ改革も不可欠です。そのためには、市況リスクが大きい事業などは構造的に再構築をする必要があります。

 成長事業分野の見定めや投資判断の大胆な実行にあたっては生え抜きの経営幹部の知見に加え、新たな視点も必要と考え、今回、ベルギー出身のジョンマーク・ギルソン氏を社長に招きました。21年4月1日に社長に就任するギルソン氏を先頭に、ポートフォリオ改革に取り組むことで、企業価値も上げていくことができると確信しています。