聞き手/斎藤 正一(日経ESG経営フォーラム事務局長)

コロナ禍で打撃を受けた事業がある一方でESG的なビジネス展開には追い風が吹く。人権や気候変動への取り組みを強化、ESG経営を一層進展させる。

コロナ禍経営におけるESGの位置づけに変化はありますか。

早川 泰宏(はやかわ・やすひろ)
早川 泰宏(はやかわ・やすひろ)
帝人グループ 専務執行役員 CSR管掌
1980年帝人入社。99年帝人化成資材部長、2004年帝人購買・物流室長を経て10年帝人グループ執行役員・原料重合部門長に就任。13年同執行役員人事・総務本部長、17年同常務執行役員人事・総務管掌を歴任。19年より現職(写真提供:帝人)

早川 泰宏 氏(以下、敬称略) ESGに対する考え方や取り組みは一切変えていません。2020年に発表した中期経営計画で「気候変動の緩和と適応」「人と地域社会の安心・安全の確保」など4つの重要社会課題を設定しました。ビジネス領域の「環境価値ソリューション」「安心・安全・防災ソリューション」「少子高齢化・健康志向ソリューション」を通じて価値を提供し、未来の社会を支える会社になると示しました。

 コロナ禍で航空機や自動車向けの炭素繊維など、当社のマテリアル事業は大変な打撃を受けました。一方、脱炭素社会の実現に向けた動きが加速し、対面の不要な遠隔医療も進展の可能性が高まっています。中計に盛り込んだESG的なビジネス展開にはむしろ追い風と考えています。

2℃・4℃シナリオで分析

19年に人権方針を策定しました。人権への考えを教えてください。

早川 企業理念で「人間への深い理解と豊かな創造力でクォリティ・オブ・ライフの向上に努めます」と宣言しています。その実現に不可欠な「すべての人間の尊厳と権利の尊重」が、人権に対する基本姿勢です。18年に企業理念に基づく行動規範を改定しました、5項目のうちの1つを「Integrity」とし、ここでも人権を尊重する姿勢を明示しました。人権は企業活動の基盤と認識し、取り組みを強化しています。

 その一環で、人権デューデリジェンス(DD)を進めています。英国のNGOに委託し、我々の人権侵害リスクを評価してもらったところ、繊維・製品事業で工場を持つ東南アジアでの児童労働や、適正ではない賃金での労働発生リスクが高いとの結果が出ました。これを受け、事業を手掛ける帝人フロンティアに人権侵害リスクの低減活動をするように指示しました。

 19年には経済人コー円卓会議日本委員会の協力の下、国際NGOの専門家などとダイアログを実施しました。人権DDやそれに関係するCSR調達アンケート調査の領域、会社数、評価方法などの妥当性を確認し、改善点の指摘を受け、さらに取り組みを強化しています。

気候変動への取り組みではシナリオ分析を行い、CO2排出量削減のロードマップを作ったそうですね。

早川 気候変動の影響を大きく受ける恐れがある炭素繊維事業、複合成形材料事業の顧客である航空機業界と自動車業界の動向について、2℃シナリオ、4℃シナリオで分析しました。どちらの業界も2℃シナリオでは需要は減少しますが、軽量化素材のニーズは高まると想定しています。4℃シナリオでは需要は増えるものの軽量化素材へのニーズは限定的となり、その影響はプラス・マイナスで大差はないとの結論に達しました。