聞き手/酒井 耕一(日経ESG発行人)
2020年1月、基本使命と持続的成長の実現に向けて長期経営計画2030を策定した。「社会価値向上戦略」と「株主価値向上戦略」を両輪に据えて実践する。
長期経営計画2030で定める「社会価値向上戦略」と「株主価値向上戦略」の2つは、どのような位置付けでしょうか。

1980年三菱地所入社。2011年執行役員および三菱地所投資顧問取締役社長、13年常務執行役員、16年執行役常務、17年代表執行役執行役専務(現在に至る)、18年取締役(現在に至る)。経営企画部およびサステナビリティ推進部担当(撮影:村田 和聡)
有森 鉄治 氏(以下、敬称略) 社会価値の向上は、社会が直面する課題を発見し、その解決策の提示の過程でビジネスを行う戦略です。今回、まず社会価値の向上があり、その上で株主価値の向上に取り組むことを明確化しました。
さらに、「まちづくりを通じた真に価値ある社会の実現」という基本使命のもと、環境、グローバリティ、コミュニティ、ダイバーシティ、少子高齢化、ストックの有効活用、デジタル革新の7つのマテリアリティを特定しました。その中で30年に向けた重要テーマとして、「Environment」「Diversity & Inclusion」「Innovation」「Resilience」の4つの重要テーマを策定したという流れです。
「レジリエンス(回復力、強靭性)」を入れたのは、安全や安心の重要性がさらに高まるというお考えですか。
有森 1995年に阪神淡路大震災、2011年に東日本大震災、16年に熊本地震と、国内での大地震が続いている状況です。
災害の危険に対して、あらためてまちと人をしっかりと守れる準備をしなければならないという決意の表れでもあります。
21年1月に、「2021年度より、東京・千代田区の大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアの18棟と横浜ランドマークタワーの全電力を再生可能エネルギー由来にする」と発表しました。
有森 20年10月に菅首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」があり、21年1月には米国でグリーンニューディール政策を掲げるバイデン新政権が誕生しました。世界的にESGの意識が高まっています。社会価値を向上させる事業でなければ、中長期的には社会から支持されません。SDGsを意識して社会に価値を提供すれば、ビジネスはいい方向に回り、それは株主価値の向上につながる。社会価値と株主価値の向上は当社ビジネスの両輪なので、相乗効果を生むと確信しています。