停滞する市場では成長できない
グローバルへと販売エリアを拡大するに当たり、投資配分にも何か影響があるのでしょうか。
ギルソン 投資ではR&Dへの割合を高めます。そのため最初にグローバルで見てどのエリア、どの分野に注力するかを定義することが必要です。そのマーケットに合わせてイノベーションの創出を進める流れになります。現在、研究開発は実質日本でしか行なっていません。欧州で本格的な研究開発ができているとは言えませんし、米国やアジア太平洋地域には研究所もありません。かといって、やみくもに投資するわけではなく、研究開発の投資額そのものは引き上げていきますが、利益率も重視します。
現在は高いコストに低い利益率になっていますが、目指すのはコストが高くても利益率も高い状態です。三菱ケミカルホールディングスは技術主導の会社ですから、営業エリアを拡大し、事業の成長性や競争力を高め、さらに研究開発を加速していくことが第一です。そういった観点から、利益率の低い事業については今後見直しを図ることで、より研究開発が進み、知財面での成果にもつながると思います。
当社に限らず、日本の多くの企業は質の高い製品と、優れた人材を擁しています。最大の問題は、そのような企業の大半が日本市場のみにとどまっているという事実です。
残念ながら、近年の日本経済は停滞しています。しかし、企業が生き残るためには成長し続けなければいけません。日本経済が上昇気流にあれば日本のみでの事業展開でも企業は成長できますが、今はそうではありません。だからこそ、私たちは成長するために、海外の市場へ挑まなければいけないのです。
ESGは今後どのような形で経営に組み込まれるのでしょうか。
ギルソン まず投資家の観点から考えます。機関投資家の多くは昨今、企業に対して利益や成長率だけでなく、ESG目標を設定することを求めています。米ブラックロックなどがその例です。化学産業は、鉄鋼に次いでCO₂排出量が多い産業であり、当社も例外ではありません。そこで、30年度に温室効果ガスの排出量を19年比グローバルで29%削減、50年には実質ゼロという目標を立てています。
この29%の削減に向けては、電力構成の改善や燃料転換、製造プロセスの合理化などによって実現できる見込みです。50年のカーボンニュートラルに向けては、原材料の供給体制をさらに見直し、バイオマス原燃料や新技術の開発、カーボンオフセットなども含めて継続的な取り組みで達成可能と考えています。
当社では、役員報酬においてESGやダイバーシティに関連する項目を報酬体系にも盛り込み、賞与の評価などに反映しています。企業としての目標も大切ですが、着実にESGを浸透させ、実践されるようにするために、給与、賞与の査定や社員の業績に紐づけたり、評価に組み込んだりすることが必要だと感じています。