聞き手/安達 功(日経BP 総合研究所フェロー)

水素とCO₂から合成メタンをつくるメタネーションで、エネルギーの安定供給と脱炭素の両立を目指す。大手企業や地域と協働して、エネルギーの地産地消と産業連携を推進する。

エネルギーを巡る状況は目まぐるしく変わりつつあります。ロシアのウクライナ侵攻で、エネルギーの安定供給に対する認識は変化しましたか。

矢加部 久孝(やかべ・ひさたか)
矢加部 久孝(やかべ・ひさたか)
東京ガス 執行役員 水素・カーボンマネジメント技術戦略部長
1988年東京大学物理工学科卒業後、東京ガス入社。2010年より水素製造関係の研究に従事。13年基盤技術部 エネルギーシステム研究所長、15年燃料電池事業推進部 燃料電池開発Gマネージャー、17年基盤技術部 基礎技術研究所長、20年基盤技術部長を経て、21年より現職(写真:髙田 浩行)

矢加部 久孝 氏(以下、敬称略) 資源に乏しい日本は、安全性(Safety)を大前提に、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境性(Environment)という「S+3E」を基本戦略として、エネルギー・電力システムを構築してきました。今回のウクライナ問題を受けて、この基本戦略の重要性を改めて認識しました。

エネルギーの安定供給と環境性の両立を目指す将来に向けた重要な戦略として「メタネーション」技術の実用化に取り組んでいます。

矢加部 メタネーションはCO₂と水素(H2)からメタン(CH4)を合成する技術です。都市ガスの主成分はメタンであり、そのメタンをメタネーションで生成した「合成メタン」に置き換えることで、都市ガスの脱炭素化を目指しています。

 2022年3月23日から東京ガス横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)で一連の技術・ノウハウなどメタネーションの知見獲得を目的として実証試験を開始しました。

既存インフラをそのまま活用

なぜメタネーションが注目されているのでしょうか。

矢加部 エネルギー分野で脱炭素を進めるには、再生可能エネルギーの導入量を増やすことが重要です。ただ、エネルギー需要の約6割は熱として利用されています。電気よりもガスの方がエネルギー効率の良い分野は数多くあり、これからもガス体エネルギーの需要は続くと思います。

 都市ガスの主原料を合成メタンに置き換えても、既存のガス導管などのインフラがそのまま使えます。追加のインフラ投資が不要で、今まで通り機器を使用して脱炭素を実現できることは、合成メタンの大きなメリットです。

商用化の課題は何ですか。

矢加部 大きく3つの課題があります。1つ目は技術的な課題です。メタネーションでは、原料のCO₂と水素、触媒を使って約500℃で反応させて合成メタンを作ります。合成メタンを天然ガスに替わるエネルギーとして活用するには、原料の水素が大量に必要です。

 都市ガスを改質して水素を生成するのが工業的には最も安価な方法ですが、水素と同時にCO₂が生成されてしまいます。一方、水(H2O)を再生可能エネルギーで電気分解して「グリーン水素」を製造する電解法であれば、CO₂は排出されません。いかに安く大量のグリーン水素を製造するかが鍵となります。都市ガス使用時に排出されるCO₂を空気中から分離回収(DAC)して、合成メタンの材料として再利用する技術の確立も重要です。

 商用化に向けては、海外の安価な再エネで水素を生成して合成メタンを製造し、液化天然ガス(LNG)と同様にタンカーで輸入するのが現実的です。そのためのサプライチェーンの構築が2つ目の課題になります。