聞き手/斎藤 正一(日経ESG経営フォーラム事務局長)

海外で地道に取り組んできたレシピ提案がコロナ禍で花開き、しょうゆが現地の食文化に融合しつつある。「食を通じた喜び」を世界で提供するため、社員一人ひとりとのビジョンの共有に力を注ぐ。

2022年3月期は売上高・利益とも過去最高を更新するなど好調でした。

中野 祥三郎(なかの・しょうざぶろう)
中野 祥三郎(なかの・しょうざぶろう)
キッコーマン 代表取締役社長COO
1957年千葉県生まれ。81年キッコーマン入社。2002年営業企画部長、06年プロダクト・マネジャー室プロダクト・マネジャー。08年執行役員 経営企画部長、11年常務執行役員 経営企画室長、12年常務執行役員CFO、15年取締役常務執行役員CFO。19年キッコーマン食品代表取締役社長(現任)、21年6月より現職(写真:吉澤 咲子)

中野 祥三郎 氏(以下、敬称略) 前期は家庭用・業務用とも海外事業が好調でした。ただコロナ禍の影響で21年夏ごろから上がっていた穀物価格がウクライナ危機による相場への影響でさらに高騰しました。原油やガスの価格上昇によりオペレーションコストも高まっています。今期は見通しが難しい状況です。

「グローバルビジョン2030」で「新しい価値創造への挑戦」を掲げています。思いを聞かせてください。

中野 我々が創造すべき価値とは、お客様に食を通じた喜びを提供することです。その結果、しょうゆが世界中で使われ、キッコーマンが地球社会で存在意義の大きな企業になることを目指しています。この10年で海外事業が2倍以上に成長し、しょうゆが世界中で定着しつつあるのは、こうした思いで取り組んだ活動が実を結んだものと捉えています。

 しょうゆを世界に普及させるには現地で作る料理に使ってもらい、現地の味に不可欠な調味料に育てる必要があります。そのために我々は長年、レシピの提案に力を注いできました。外食もままならないコロナ禍で、家庭の料理にしょうゆを使ってみようと考えた人が増えたのか、20~21年には欧米でレシピサイトへのアクセス数が増えました。米国で「鶏の手羽先のサイダーしょうゆ焼き」に人気が集まるなど幅広いメニューのレシピが閲覧されています。しょうゆと海外の食文化との融合が進みつつあると手応えを感じています。

社会とのつながりを大切にする

グローバルビジョンの中で重要な社会課題として3分野を特定しました。

中野 「社会からの要請が強い課題」と「キッコーマンとの関係性が深い課題」という視点で議論して特定しました。豊かな自然は食を提供する基盤であり、「地球環境」の負荷軽減は欠かせません。食に携わる企業として当然、「食と健康」には大きな責任があります。農家、小売店、お客様とステークホルダーも幅広く「人と社会」とのつながりも重要です。

 キッコーマンは戦前から「産業魂」を理念として掲げるなど社会とのつながりを大切にしながら事業を運営してきました。その思想は今のESG経営にも通じています。

20年に策定した「長期環境ビジョン」の取り組みを教えてください。

中野 重要なテーマに据えるのが気候変動です。30年度までにCO₂排出量を18年度比30%以上削減する目標を掲げています。一部工場で屋根に太陽光パネルを設置したほか、再生可能エネルギー由来の電力の調達やエネルギー効率の高い設備への更新を進めています。24年に竣工予定のしょうゆ関連調味料の新工場では効率的な生産方法も採用し、CO₂排出量を大きく減らす予定です。

■ キッコーマンのグローバルビジョン2030
■ キッコーマンのグローバルビジョン2030
※1 2018年度比 ※2 2011年度比 ※3 生産部門
「グローバルビジョン2030」では重要な社会課題3分野に「地球環境」「食と健康」「人と社会」を特定した。20年には「長期環境ビジョン」を定めCO₂排出量削減などの取り組みを進めている
(出所:キッコーマン)