非財務情報に取り組む上での強みはなんでしょうか。

瀧澤 企業の会計監査にはきちんとした枠組みがあり、その企業の財務情報が正確であることを第三者の監査法人が保証します。会計監査には、対象の母集団から一部項目を抽出して監査をする「試査」があり、リスクと効率性を考慮して試査の範囲やサンプル数、実施時期などを決定します。

 一方、非財務情報が適正かどうかは財務諸表監査ほどの確立した検証手段がありませんが、会計監査と同様に、試査に基づく非財務情報の測定や評価、開示の枠組みをつくればよいのです。その正確性を担保する枠組みをつくれるのが会計監査法人だと思います。

参画している「EPIC」と、EYの役割をお聞かせください。

瀧澤 EPICは「Embankment Project for Inclusive Capitalism」(統合的な目線による新たな資本主義社会の構築に向けた取り組み)の略称で、英国の任意団体です。31団体が参画し、事業会社以外にアセットマネジャーや投資ファンドなどのメンバーが、資本主義の枠内で環境について考えていく組織です。EYは16年に参画し、モデレーターの役割を担いました。

 従業員、顧客、投資家、そして社会全体のステークホルダーに対する価値を指標として定義し、測定方法を明確化した63指標から成る「LTVフレームワーク」を18年に発表しました。20年1月に開催したWEF年次総会、いわゆるダボス会議でも「インクルーシブ・キャピタリズム(包摂的な資本主義)」が取り上げられ、22(最終的には21)の指標を出しました。これはEPICの取り組みが相当影響を与えており、誇らしく思っています。

■ LTVフレームワーク「長期的価値の4つのカテゴリー」
■ LTVフレームワーク「長期的価値の4つのカテゴリー」
長期的視点で企業の価値創造を行うLTV(Long-term Value)のフレームワークは、財務的価値・消費者価値・人材価値・社会的価値の4カテゴリーから検討する
(出所:EY Japan)
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「ウエルビーイング」が注目され、人的資本の重要性が高まっています。

瀧澤 会計の枠組みに人的資本を取り込むのは至難の業です。優秀な従業員が数多くいても価値が算定できないので、人的資本は貸借対照表(B/S)には表れません。例えば、従業員の健康度や離職率、研修時間など統計化できる数値情報から評価して、主要財務諸表外に記述するのが現実的です。一方で、従業員エンゲージメントが高い企業はパフォーマンスが良いことも分かっています。

 企業のESGへの取り組みに終わりはありません。EY Japanも21年7月に自らのLTVビジョンを発表しました。脱炭素や人材の活用などの目標を設定し、社会の範となるべく持続可能な企業市民の在り方を追求します。