住宅部門では新規事業にも関わってきたと思いますが、技術の裏付けを持ちながら事業の将来性を見極めるには何が大事だと思いますか?

上脇 マーケティングですね。今だけではなく、将来も含めた顧客のニーズに応えるために必要な技術を合わせていく。1つの例は太陽光発電です。当社は太陽光による発電システムを一般住宅に導入して、自宅での発電で生活する技術を早期に取り入れました。当時の上司は、「必ず太陽光発電の時代が来る」と見定めて、必要な技術を集中させ、スマートハウスを完成させました。太陽光発電もソーラーパネルを住宅の屋根に乗せるのも、当たり前ではなかった時代でしたが、後から地球温暖化が話題を集め、消費者の意識が変わっていきました。この上司は、「環境への配慮が市民権を得る」という強い信念を持っていたのです。マーケティングとはニーズを見定めることで、それがなければ技術があっても、市場とマッチしないのだと印象に残りました。

マクロの視点からニーズを引きつけるという例ですね。ESG基盤を強化することで、社会の変化やニーズに対する勘が研ぎ澄まされていきますね。

「ESG経営を強化し、未来のニーズをつかむ」<br><span class="fontSizeS">(写真:村田 和聡)</span>
「ESG経営を強化し、未来のニーズをつかむ」
(写真:村田 和聡)

上脇 社会課題の解決を目的とした商品は、実はほかにもあります。自動車用の2枚の合わせガラスにはさむ中間膜は遮音、遮熱の機能を付けることで、主力事業としての成長を遂げました。騒音を防いで快適性を上げたほか、車内温度の上昇を防いでエアコンの負荷を減らすことができ、環境に配慮した商品となりました。未来のニーズを予測し、強い信念を持って事業化にまい進した経営陣がいたからこそできたことです。こうした例も振り返っても、ESG基盤を強化することは、社会のニーズに対する従業員の勘が働きやすくなることにつながると考えています。

先端的な取り組みとして、未来の社会を視野に入れたまちづくりに取り組む動きもあります。どのようなビジネスの機会を考えていますか。

上脇 まちづくりというと最先端の技術を駆使したイメージがあるかと思いますが、当社は安心に暮らせることを目的とした、地に足がついたまちづくりを念頭に置いています。災害が起こっても普段と変わりなく暮らしていける。例えば住宅の地面の下に、地震があっても壊れない、あるいは、洪水が起きても地面が水を保持してあふれない配管が敷いてあるというふうに、生活基盤を守る技術が集積しています。こうした技術を土台にしてまちが作られてこそ、他社が手がけるIT技術を活用したモビリティの活用など、最先端の試みを反映させていくこともできるでしょう。

ESGは仕事そのもの

ESG経営を全社に浸透させるために何をしていますか。

上脇 従業員にESGを浸透させることは、もっとも大事だと考えています。社長をはじめ、経営層が直接従業員と対話をする「ビジョン・キャラバン」は、自分の仕事がどうESGにつながっているかを認識してもらうための取り組みです。自分の仕事に誇りを持つことで、新しいことに挑戦しようというマインドになる。とはいえ、これは一朝一夕ではできないと思っています。役員も従業員により効果的にメッセージを伝えるため、コミュニケーションスキルの研修を受けています。

 幹部に関しては当社が目指すESG目標をKPIにして、評価に反映される仕組みを用意しています。具体的には事業部門におけるサステナビリティ貢献製品の売上比率です。社会課題解決に貢献する製品の基準を定めて、その創出を進めています。また投下資本に対する効率といった財務指標のほか、労働災害や品質問題、会計不正などの好ましくない出来事(インシデント)を抑え込めているかという非財務指標、加えて働き方改革や再生可能エネルギーに対する投資が事業部門としてできているかなどの内容です。

海外展開も広がるなか、ESG経営を各現地法人でも進めていますか。

上脇 経営層と従業員が対話してESGへの認識を深めていく「ビジョン・キャラバン」は海外でも実施する計画です。国内に比べると、海外は難しい側面もありますが、グローバルに取り組んでいきます。

 19年の創立記念日に社長から全社員に向けて「我々の仕事そのものがESGである」というメッセージを送りました。仕事そのものが社会課題の解決になり、会社の成長につながっていることを社内の共通認識として、新しい挑戦を続けていきたいと考えています。