聞き手/桔梗原 富夫(日経BP 総合研究所フェロー)

企業のデジタルによる変革を支援するため、経営トップの意識を変え、業務プロセスの改革に挑む。ESG経営で無形資産の価値が重視されるなか、DXの重要度はますます高まっているという。

「DX」という言葉を目にしない日はありません。企業にとってなぜDX(デジタルトランスフォーメーション)が重要なのでしょうか。

安部 慶喜(あべ・よしのぶ)
安部 慶喜(あべ・よしのぶ)
B&DX 代表取締役社長
大学院卒業後、アビームコンサルティングで経営コンサルティングに従事。2021年1月B&DX設立、代表取締役社長に就任。22年1月に書籍『Digital-Oriented革命』を日経BPより発刊予定(写真:中島 正之)

安部 慶喜 氏(以下、敬称略) 情報通信技術(ICT)の目覚ましい発展により、産業構造が大きく変わり、新たな経済価値が生まれています。18世紀から19世紀にかけて欧米で工業化・都市化が進んだ最初の産業革命以降、鉱工業や重工業が生まれた19世紀末から20世紀初頭の第2次産業革命を経て、20世紀末にはデジタル技術が進展し、第3次産業革命が起きました。現在はデジタルを基盤にバーチャル(仮想空間)がリアル(現実世界)と融合する第4次産業革命が進行中です。

 今では生活にバーチャルが入り込み、それが前提の社会に変化しています。以前は店舗を訪れて物を買うという行為の代替手段として、インターネット通販でのオンライン購入がありました。今ではバーチャルだからこそ成立するサービスが続々登場していて、それが現実世界と融合した新しいビジネスが誕生しているのです。

 日本は世界でも有数の技術先進国です。例えばテクノロジーの特許数は世界4位、モバイル・ブロードバンド契約者数は1位、ワイヤレス通信浸透率は1位、オンラインツールを利用して国民が政府活動に電子参加する「デジタル化適応姿勢」は4位と、生活の中でのデジタル活用は世界トップクラスです*。

 ところが企業のデジタル活用率は世界でもかなり低い水準です。スイスに拠点を置く世界トップクラスのビジネススクールであるIMD(国際経営開発研究所)が公表した「世界デジタル競争力ランキング2021」では、日本は調査対象64カ国の中で前年の27位から28位に順位を落としました。調査カテゴリーのうち、部門のデジタル人材のグローバル化と、企業の変化迅速性は対象国中で最下位、ビッグデータ活用は下から2番目です。

DXで遅れる日本企業

これほど企業のデジタル化が進まないのはなぜでしょうか。

安部 日本は1945年の太平洋戦争終戦後、ドン底から右肩上がりで世界に類を見ない高度経済成長を遂げました。80年代には成長率こそ鈍ったものの、GDPを大きく伸ばし、89年の株式時価総額ランキングでは世界トップ50社に日本企業が30社以上も名を連ねていました。

 ところがバブル崩壊を経て人口減少期に入ると、国内需要も減退し、労働人口が減っていきます。そうした中でバーチャルとリアルが融合した全く新しいデジタルビジネスが登場しました。日進月歩で進化するデジタル技術を活用したビジネスが、日本の得意とする技術力を基に人の労働力で規模を拡大していく事業モデルを置き換えてしまったのです。消費者はより便利なデジタルサービスを利用するようになり、旧来のビジネスは置き去りにされてしまいました。

*IMD World Digital Competitiveness Rankings 2021