新型コロナウイルス感染症から人々の命を守るため、ヘルスケア事業で貢献する。事業を通じた貢献に加え、困窮するシングルマザーや子供たちへの支援にも取り組む。

 「変化を創り出す会社」を目指して――。富士フイルムホールディングス(HD)の古森重隆・代表取締役会長・CEO(最高経営責任者)は、こんなメッセージを発信している。環境変化に素早く対応するだけでなく、変化を予測して動き、自ら変化を創り出す企業を目指すという。

 2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大は、世界の社会・経済活動を停滞させた。その危機的なコロナ禍において古森氏のメッセージを体現するかのように、富士フイルムグループは新型コロナウイルス感染症に対する様々な取り組みに奮闘している。

予防、診断、治療に技術で貢献

 幅広い事業領域のうち、ヘルスケア事業では創業当時から販売しているレントゲンフィルムをはじめ、さまざまな医療機器を販売してきた。このコロナ禍で独自の技術を生かし、新型コロナウイルス感染症の「予防」「診断」「治療」の各領域で社会に貢献している。

 「予防」領域で取り組んでいるのが、新型コロナウイルス感染症向けワクチン候補の受託製造だ。バイオ医薬品のプロセス開発・製造受託事業会社であるフジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ(FDB)は20年7月、米ノババックス社のワクチン候補の原薬製造を受託した。米国ノースカロライナ拠点で既に製造を始めており、21年には米国テキサス拠点と英国拠点でも製造を開始する。

フジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズは、COVID-19の治療薬候補やワクチン候補の原薬製造に取り組んでいる
(写真提供:富士フイルムHD)

 「診断」領域では、迅速な検査を実現するPCR検査試薬を発売した。試薬の研究を通じて酵素や遺伝子技術に関する知見を数多くもつ富士フイルム和光純薬は、検査時間を短縮する検査キットを開発した。コンセプトを確立したのが20年2月で、一気に開発を進めて2カ月後の4月15日には発売に至る素早い対応だった。この検査キットは、従来4~6時間かかっていた検査時間を約2時間に短縮することに成功した。

 検査時間の短縮はさらに進み、7月31日には約1時間で検査できる処理試薬を発売した。唾液を検体として利用できるため、採取時にくしゃみや咳によるウイルスの飛散を抑えられる。しかも、ウイルスRNAとヒト遺伝子を同時に検出するキットを組み合わせることで、誤って陰性と判定してしまう「偽陰性」の発生を低減できるようになった。

 富士フイルム和光純薬はまた、同社の全自動遺伝子解析装置用に、新型コロナウイルス遺伝子を全自動で検出できる試薬も開発した。検査時間を約75分と大幅に短縮し、熟練した検査スタッフでなくても素早く簡便にPCR検査をできるようにした。

 試薬開発では、従来なら1人の開発者が1つの試薬開発をすべて担うのだが、複数の開発者が分業して進めることで開発期間を短縮した。「開発の現場がアンテナを高く張り、社会のニーズを把握したことで、普段とは違うプロセスで開発を進め、迅速に製品を提供できた」と富士フイルムHD ESG推進部の小島麻理マネージャーは話す。