「治療」領域では、富士フイルム富山化学が抗インフルエンザウイルス薬「アビガン錠」の増産に取り組んでいる。アビガン錠はウイルスのRNAポリメラーゼを選択的に阻害することでウイルスの増殖を防ぐメカニズムを持つ。20年3月から新型コロナウイルス感染症患者を対象とした治験を実施し、10月に承認申請を行った。

 アビガン錠の普及に向けた海外展開も進んでいる。20年6月にインド大手製薬企業などとライセンス契約を結び、10月には中国製薬企業と提携した。感染症との闘いは人類が直面する重要課題のひとつ。アビガン錠の迅速な開発・供給体制を、グローバルに構築していくという。

 また、FDBは20年5月、米ビル&メリンダ・ゲイツ財団などが立ち上げた新型コロナウイルス感染症のグローバル治療推進プロジェクト「COVID-19 セラピューティクス アクセラレーター」から治療薬のプロセス開発・製造を受託したことを発表した。10月には、同プロジェクトが開発・製造を支援することが決まった米イーライリリー社の新型コロナウイルス感染症向け抗体医薬品の原薬製造を受託した。21年からFDBのデンマーク拠点で製造を開始する。

 「医療関係者の負担を軽減するために何ができるか、世界的な緊急事態を乗り越えるために自分たちは何をすべきか、といったことをグループ各社の現場が自発的に考え、取り組んでいる」(小島マネージャー)。

 こうしたPCR検査用試薬の製造や、医薬品・ワクチン製造の支援などヘルスケア分野の事業を通じて、新型コロナウイルス感染症の拡大抑止や一刻も早い終息に貢献する。

清拭材や化粧品、チェキを寄付

 企業市民としても、コロナ禍の社会で生じている課題に目を向け、解決に取り組んでいる。それは事業の外で進める、新たな支援活動だ。

 感染拡大により経済的に影響を受け困窮する人たちが増えている。ひとり親家庭向けの就労支援や相談事業などを展開する認定NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」(以下、ふぉーらむ)と、子供食堂の運営をサポートするNPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」(以下、むすびえ)に、支援金と支援物資を20年12月に寄付した。

 ふぉーらむに寄付したのは食料品などを購入するための資金に加え、環境清拭材「Hydro Ag+アルコールクロス」と機能性化粧品「アスタリフト」。Hydro Ag+アルコールクロスは同社が長年、銀塩写真フィルム事業で培った技術を生かした商品で、高い抗菌性能が長時間持続するのが特長だ。

 コロナ禍で「シングルマザーの6割が収入減となり、11%の人は収入がない」(ふぉーらむ)など、ひとり親家庭の困窮が社会課題となっている。「その日の食べるものに困るような現実がある。傍観せず、今自分たちにできることを実施すべきだ」。支援を決めた背景を、富士フイルムHD ESG推進部の林健太郎統括マネージャーはこう説明する。

 ふぉーらむの村山純子氏は、「必需品となったマスクやアルコール消毒剤などの購入はひとり親家庭の家計をさらに圧迫している。支援金に加え、アルコールクロスなどの提供は、ありがたい支援だった」と話す。

 むすびえには、アルコールクロスに加えて、富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」とフィルムを寄付した。

■ 医薬品などの開発だけでなく社会課題の解決にも取り組む
富士フイルムHDは、NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」に対する食料品購入資金の寄付などを通じて、ひとり親家庭の支援に取り組んでいる
(写真提供:しんぐるまざあず・ふぉーらむ)
NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」とも協力し、子供食堂にインスタントカメラ「チェキ」を寄付。子供たちが人とつながる温かい時間を過ごすことに貢献している
(写真提供:全国こども食堂支援センター・むすびえ)

 子供食堂は、子供が1人でも行ける無料または低額の食堂で、全国に3700カ所以上ある。ところがコロナ禍で「感染リスクが怖く、子供食堂の活動を再開できているところは約3割。子供たちの居場所づくりを支援したいと寄付を決めた」と林統括マネージャーは説明する。

 むすびえの釜池雄高理事は、「12月は冬休みやクリスマスなどのイベントもあり、子供食堂を再開するところも増える。チェキがあれば、運営者と子供や保護者、そして子供同士のコミュニケーションが楽しくなり、つながりをつくれる。心を満たすチェキのような支援は時宜を得たものと感じる」と話す。未来を担う子供たちが人とつながり合い、笑顔で暮らせる社会を実現するために、今企業として、何ができるのか。富士フイルムの取り組みは、そんな問いを投げかけているようだ。