旅館業の運営は、本業を推進する上でも大きな意義がある。産廃処理は社会に不可欠な事業ではあるが、ポジティブなイメージを打ち出すのが難しい分野でもある。焼却施設や埋め立て処分場の運営には、地元住民の理解を得て、安心して事業を任せてもらえる土壌を作ることが欠かせない。旅館業は、宿泊した観光客が地域の魅力を知るきっかけになる。群馬県内で旅館業を営み、地域活性化につなげられれば、地域の信頼を得られると同時に、企業ブランドの向上も図れる。

 こうして生まれた旅籠と悠湯里庵は、創業者の井上氏の思いが詰まった旅館となった。旅籠は約60~70㎡の客室が27室、悠湯里庵は約120㎡の客室が18室と、どちらもゆったりとしたつくりであり、日本の伝統に触れながら、心安らぐ空間となっている。

 両旅館の最大の特徴は、全国各地で使われていたかやぶき家屋をそれぞれ7棟移築し、宿泊棟や食事処、土産物店などに活用していることにある。

 旅籠は山の中の細い道を進むと眼下に集落が現れる。悠湯里庵は田園風景の中にかやぶき家屋が立ち並ぶ。広大な敷地の中のかやぶき集落は懐かしい日本の原風景を再現しており、「古民家のテーマパークのようで、見て回るだけでも楽しめるはず」と山崎氏は語る。

■ 川場温泉「悠湯里庵」(群馬県川場村)
広大な敷地にかやぶき家屋が点在し、日本の原風景が再現されている
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長い年月をかけて丁寧に移築した梁や柱を用いた帳場
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(写真:エコ計画)

 旅籠では敷地内の階段などに旧国鉄で使われていた枕木を再利用して、柔らかい踏み心地とともに、趣ある風情を演出している。悠湯里庵はバリアフリーに配慮したつくりで、客室を行き来するための電動カートも用意している。

 どちらの旅館にも、井上氏が集めた古民具や古美術品を展示するスペースを設けている。江戸時代を中心に使われていたたばこ入れ、印籠、たんす、郷土玩具などが並び、当時の工芸技術や美術感覚の水準の高さを感じさせる。2つの旅館ともDSを取得しているため、大使館用免税カードや外交官用免税カードを持つ人は免税措置が受けられる。

 エコ計画が旅館業を手掛けるにあたり、かやぶき家屋にこだわったのには理由がある。かやぶき屋根は最も原始的な屋根とされ、日本だけでなく欧州やアジアでも古くから家屋に使われていた。通年で収穫できるかやは通気性・断熱性に優れ、雨音が小さいなどの長所を持ち、古くから人々の暮らしを支えてきた。

 かやぶき家屋は、食事の支度や暖をとるためにいろりで火を焚くことでかやを乾燥させ、5年に一度くらいの頻度で“差しかや”でメンテナンスすれば、60~70年の寿命があるとされる。

 古くなったかやは、細かく粉砕して畑の肥料として再利用できる。いぶすことで屋根などに入り込んだ害虫を駆除し、かやの傷みを防ぐいぶし作業で生成される木酢液は殺菌効果や発芽を促進する効果があり、これも畑で活用できる。

 日本人は古くからかやぶき屋根のサステナブルな特質を生かし、住まいと食のエコシステムをつくり上げてきた。自然と共存しながら、ものを大切に使う日本文化はSDGsの精神にも通じる。エコ計画は、旅館にかやぶき家屋を取り入れることで、訪れる人にかつて日本が実践していたサステナブルな生活様式を思い起こしてもらいたいと考えている。

全国のかやぶき家屋を移築

 一方で、かやぶき屋根は20年に一度はふき替えが必要で、その費用は今、広さにはよるが2000万円ほどかかるという。一般家庭では住み続けることが難しく、放置されたまま朽ちてしまったかやぶき家屋も多い。

 エコ計画は旅籠や悠湯里庵の建設にあたり、東北地方を中心に実際に使用されていた築100年以上のかやぶき家屋を購入して移築した。

 人間国宝の陶芸家、濱田庄司氏の次男が親子の居宅として建てた「濱田邸」もその1つだ。総ひのきの歴史的な建物を栃木県益子町から旅籠に移築した。

 旅籠の玄関口となる「長屋門」は、東北地方の庄屋や豪農の家を100年以上も支えた古材を支柱に組み合わせて建てており、歴史を感じさせるつくりとなっている。

■ 薬師温泉「旅籠」(群馬県東吾妻町)
東北地方の庄屋や豪農の家を100年以上にわたって支えてきた古材を使った旅籠の玄関口「長屋門」、合掌造りの切妻屋根が風格を醸しだす
(写真:エコ計画)
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旧家や豪農で使用されていたたんすを展示した「時代箪笥回廊」
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