かやぶき家屋を移築するには現地で一度解体し、それを群馬県に運搬してから、もう一度組み立てなくてはならなかった。接着剤を使わずに木を組んだり、建築基準法に則った補強を行うために新しい木を古い木と同じように加工したりと、特殊な技術が求められる。

 経営企画室の井上君代氏は、「主に神社・仏閣の修理や補修を手掛け、木造建築の専門技能を持つ職人に当社の専属として活躍してもらった」と話す。現在もメンテナンスや補修などを一括して委託している。

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)は2020年末、日本の木造建造物を受け継ぐための伝統技術を無形文化遺産に登録することを決めた。エコ計画はそれに先立ち、20年近く前から独自に匠の技の保存・継承に一役買っていた形と言える。

農家と契約して野菜を直販

 エコ計画は旅籠と悠湯里庵で特産品の地産地消にも取り組む。旅籠ではいろりを使った食事、悠湯里庵では会席料理に地元の野菜、肉、川魚などを活用している。地域活性化につなげると同時に、輸送時のCO2排出量削減に貢献する狙いがある。

 旅籠では地元農家と提携し、その朝収穫した新鮮な野菜の直売も行っている。スーパーマーケットに並ぶことのない、大きさや形がバラバラな野菜を「ふぞろいの野菜たち®」と名付けて、観光客などに販売する。土産物店では、保存料や着色料を使わない無添加食品や地酒などを取り扱う。

■ 伝統技術の継承と地域貢献の取り組み
2018年に実施した棟のやりかえ
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地元農家の新鮮な野菜が並ぶ「ふぞろいの野菜たち®」の直売所(旅籠)
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(写真:エコ計画)

 雇用面でも地元に密着した取り組みを行っている。新卒に関しては、群馬県内にキャンパスがある留学生向けの「NIPPONおもてなし専門学校」と提携し、ホテル・旅館国際コースの卒業生を中心に採用を進めている。過去2年間でスリランカ、インドネシア、ベトナム国籍の5人を採用した。

 「日本のホテル・旅館で働くために留学前から日本語を学んでいた卒業生が多く、会話には全く問題がない。真面目な働きぶりでマナーや接客のレベルも高く、お客様からも評判がいい」と井上君代氏は話す。日本人の新卒採用が難しい中、外国籍の従業員は大きな戦力となっている。

“別邸”建設の構想も

 全国の旅行会社の投票による「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」に選出されている両旅館には、日本各地から観光客が訪れる。

 悠湯里庵がある川場村は、東京都世田谷区と「区民健康村相互協力に関する協定(縁組協定)」を結んでいる。その関係から、都内の小学校の課外授業や、政治家など世田谷区在住の要人の宿泊に利用されることも多いという。

 コロナ禍以前には日本からの観光客だけでなく、インバウンド需要も手堅くつかんでいた。富岡製糸場の世界遺産認定を機に、インバウンドの需要獲得に力を注ぐ群馬県観光課と連携した。旅行会社の紹介なども受け、香港、台湾などアジアから訪日観光客が訪れていた。

 旅籠、悠湯里庵とも客室数が少なく、宿泊できる人数は限られているが、昼食と温泉を組み合わせたツアーなど日帰り客も受け入れている。悠湯里庵はスキー場が近く、特にスキーシーズンは日帰り客が増える。日帰りでの来訪が宿泊予約のきっかけになることも多く、“宿泊予備軍”としても期待できる。

 コロナ禍で全国のホテル・旅館業は苦境を強いられる中、旅籠と悠湯里庵が受けた影響は比較的軽微だという。敷地が広く客室数が少ないため宿泊客同士が“密”になる場面はほとんどない。安心して泊まれる宿として客足は安定していた。

 旅籠と悠湯里庵の成功を受けて、エコ計画には全国から「旅館業を引き継いでほしい」という依頼が絶えない。だが、同社は地域密着での事業展開にこだわり、それらの依頼は断っている。その一方で、「将来的には、悠湯里庵の近隣に購入した土地に“別邸”を建設する構想を持っている」(山崎氏)。

 エコ計画は今後も地域と協力し合い、日本文化の保存・維持に貢献しながら、SDGs達成に通じる旅館事業を推進していく。