歴史ある日本橋エリアでエネルギーレジリエンスを高めるプロジェクトが稼働した。大型コジェネレーションシステムで電力・熱供給エリアからのCO2排出を約30%削減する。

 オフィスやホール、ショップなどからなる大規模複合ビル「日本橋室町三井タワー」。地上26階のガラス張り建物の1階には大屋根広場があり、緑が豊かに茂る。ゆったりとしたこの空間を表の顔とするなら、このタワーには全く別の顔がある。

 日本橋室町周辺地域に電気と熱を安定供給する「日本橋エネルギーセンター」がそれだ。地下3階のコンクリート壁に覆われた巨大な空間に、コジェネレーションシステム(CGS)やガスボイラーなどの大型設備がずらりと並ぶプラントの姿には驚かされる。

 三井不動産と東京ガスが共同で設立した三井不動産TGスマートエナジーが主体となり、2019年4月から「日本橋スマートエネルギープロジェクト」がスタートした。エネルギーレジリエンスの向上と、省エネルギー・省CO2によるエコフレンドリーな街づくりを実現し、災害に強く、国際競争力の高い日本橋にするのが狙いだ。

 「きっかけは11年3月11日に発生した東日本大震災。それ以前からBCP(事業継続計画)を標榜していたが、大震災で待ったなしの状況になった。周りの防災意識も非常に高まったことも影響した」

 プロジェクトを構想・実施した背景について、環境・エネルギー事業部事業グループ長の野末泰樹氏はこう説明する。

 近い将来、首都圏は巨大地震に襲われる確率が高いとされる。万一、広域停電が発生し、経済のインフラである都心のオフィスビルや街の機能が停止したら、首都圏や日本に計り知れない影響が出る。

 それを防ぐためには、電気や熱の供給システムを独自で構築し、都市防災力と優れた環境性能を両立する街づくりが必要になる。「日本橋スマートエネルギープロジェクト」は、既存ビルを含めた周辺地域へ電気と熱を安定供給することによって今ある街をそのままスマートシティへと生まれ変わらせる日本初のプロジェクトだ。

1万4000世帯分の電力を賄う

 CGSとは、天然ガスなどの燃料を使用してガスタービンなどのガスエンジンを回し、発電装置から電力を取り出すと同時に、排ガスの熱を利用して蒸気や温水を連続的に作り出すシステムのことである。

 日本橋エネルギーセンターは、地下3階にガスエンジン3台のほかに、排熱ボイラ、ジェネリンクと呼ぶ気化熱を利用して冷水をつくる冷凍機、ターボ冷凍機といった設備を数多く設置している。

 ガスエンジンは1台で7800kWの電力を生み出す。発電した電力は4階にある変電所に送られ、東京電力から購入している系統電力と合わせて、最大約4万3000kWの供給能力となる。一般的な家庭1万4000世帯分の電力を賄える計算だ。電圧は6万ボルト、2万ボルト、6000ボルトの3種類に変換した上で顧客の要望に応じて送電する。

 一方、温熱の供給能力は約110GJ/h、冷熱は約60 GJ/h。これらは主にビルの冷暖房に使われる。

 地下3階のプラントへ下っていく途中には、防水コンクリートを使った厚さ30㎝の扉が設置され洪水などの水害から設備を守る。耐えられる水圧は22t。しかも、地下3階から地上2階レベルまでコンクリートですっぽりと覆った「壺型潜水艦構造」を採用し、浸水を防ぐ徹底した災害対策を行っている。また、ガスエンジンを設置する床は振動や音を抑える構造とし、建物への影響を防いでいる。

 地下2階には24時間体制で運用・管理を行う中央監視室がある。壁面を埋め尽くす大型液晶ディスプレーに、様々な情報が集約され映し出される。過去の消費電力データや天気予想などの情報をもとに翌日の電力需要を予測。それに応じてCGSの発電計画を立てる。「日本橋エネルギーマネジメントシステム(NEMS)」により、日本橋エネルギーセンターのCGSや熱源設備だけでなく、エリア内にある熱源設備全体を最適運用できる日本初の試みだ。

 電力や熱源を供給するエリアは日本橋室町・本町地区の一部で、約20棟、延べ床面積約100万m2の建物が対象になっている。三井本館や日本橋三越本店といった重要文化財が含まれるほか、ライフサイエンスビジネスの拠点もある。災害時の帰宅困難者を収容する一時滞在施設にもエネルギーを供給し、安心・安全な街づくりに貢献できるようにする。