栃木県那須町などで畜産業を営む敷島ファームは、ゲノム情報を活用した品種改良に取り組む。牛のゲップやふん尿によるメタンガス対策や循環型農業などサステナブルな社会の実現にも貢献する。

 栃木県那須町に本社を置く敷島ファームは、黒毛和牛専門の畜産事業を中心に、農園事業、食品事業、レストラン・ホテル事業と多角的に展開する。栃木県那須町と北海道白老(しらおい)町の広大な直営牧場では、国内最大規模となる約1万1000頭の黒毛和牛を飼育している。

 敷島ファームの黒毛和牛は、「敷島生まれ、敷島育ち」「白老生まれ、白老育ち」というキャッチコピーの通り、繁殖から肥育、出荷までを1カ所の直営牧場で手掛ける生育完全一貫生産体制を実現している。通常の養牛農家では、繁殖母牛に産ませた子牛を出荷できるようになるまで育てる繁殖農家と、子牛市場で子牛を購入して育てて枝肉として出荷する肥育農家とで分業化されている。しかし、子牛は競りで売買されるため価格変動や頭数不足などのリスクがあるほか、購入した子牛の生育環境が把握しにくい。こうしたリスクは、食肉流通の安定や安心・安全性に対するマイナス要因となる。

 「自社直営牧場による生育一貫生産体制であれば、外的要因による影響を受けにくくなり、生まれてから出荷するまでの飼育環境を一元管理できるので、もっとも重要な食の安心・安全を守ることにもつながる。繁殖牧場から肥育牧場へ子牛を移動することもなくなり、環境変化によるストレスを与えないで済むメリットも大きい」と、畜産事業部長の五十嵐将光常務取締役は話す。

ゲノム評価で肉質を向上

 生育一貫生産体制にすることで、数世代にわたって各種データの収集が可能になる。そこで敷島ファームでは、膨大なデータを活用した品種改良に挑むことにした。

 一般的に行なわれている交配による牛群改良(品種改良)では、特定の系統から生産された牛の肥育成績を蓄積して、それらの系統データを基に交配を重ねる。しかし、データの蓄積に年単位での時間がかかる上、系統での評価になるため兄弟の個体差を考慮できないという問題を抱えていた。

 こうした課題を解決するため敷島ファームは、2017年から一般社団法人家畜改良事業団(LIAJ)との共同研究により、「ゲノミック評価」というDNA解析技術による牛群改良を始めた。同じ系統から生まれた兄弟とはいえ、一頭ごとに個性があり、ゲノミック評価はその微妙な違いをDNA解析により明らかにする手法だ。個体ごとの遺伝的な能力を評価し、より的確な交配選択でスピーディーな牛群改良を可能にする。

 最初に行なったことは、18年に飼育中だった全繁殖母牛(約4500頭)のDNA解析だった。「BMS(ビーフ・マーブリング・スタンダード:霜降り具合)」「推定歩留」「皮下脂肪厚」「バラ厚」「ロース芯面積」「枝肉重量」という6項目を5段階で評価したところ、当時は全項目が全国平均以下であることが分かった。

 この結果を受けて、能力が低い、または遺伝的リスクがある繁殖母牛に対して、そのマイナス部分を補う形質を持つ雄牛を交配させていった。そうすると、年々肉質が向上し、約3年という短期間で優秀な子牛が安定して生まれるようになった。牛肉の肉質等級(A5が最高ランクで、A4、A3と数字が小さくなるほどランクが下がる)でA3が中心だった同社の牛肉は、今ではA4、A5が99%以上を占める。

■ 生年別の評価値の推移
■ 生年別の評価値の推移
2013年から21年までに生まれた子牛のGEBV(Genomic Estimated Breeding Value:ゲノミック推定育種価)。ゲノミック評価による牛群改良を開始して3年目となる21年には、脂の品質を表す一価不飽和脂肪酸(MUFA)、オレイン酸も含めた全項目で評価偏差0以上(全国平均水準以上)を実現した。特に、おいしさの指標の1つ、オレイン酸の含有量が多いことが分かる
(出所:家畜改良事業団資料)
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