未来の姿から施策を考える

 大林組は、2011年に中長期環境ビジョン「Obayashi Green Vision 2050」を策定し、再生可能エネルギー事業の推進など環境に配慮した社会づくりを目指してきた。そして社会動向や事業環境の変化を捉え、経営基盤の中にESGやSDGs達成への貢献を取り込み、19年に「Obayashi Sustainability Vision 2050」へ改定した。

 この中で、将来の持続可能な社会の実現を目標に、未来の姿から逆算して今できる施策を考える「バックキャスティング」の手法を採用した。目指すべき事業展開の方向性を描き、40~50年の目標と事業展開の方向性を定めた。

 その1つが水素事業だ。同社は、水素の製造、運搬、利用までの水素サプライチェーンの構築と、海外のグリーン水素(再エネ由来の電力でつくられた水素)の利用を構想し、準備を進めている。

 再エネ由来の電力による水素製造、運搬効率を高めるための圧縮水素や液化水素の生産、長距離・大量の輸送・貯蔵などの技術を磨くことで、国内各地で進んでいる水素エネルギー関連プロジェクトの受注につなげたいとする。

 「これまで建設業で培ってきた技術的ノウハウ、マネジメント力やプロデュース力を活用することで、水素の需要先の開拓、新規事業の創出が期待できる」と、技術本部統括部長の伊藤剛氏は同社の強みについて語る。

神戸で水素CGSを実証

 17年12月、神戸ポートアイランド地区において、水素による熱と電気を近隣の公共施設に供給する「水素コジェネレーションシステム」(水素CGS)の実証試験を開始した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業で、川崎重工業と協働してプロジェクトを進めている。

 水素CGSは、水素だけを燃料にする専焼と、水素と天然ガスを混ぜ合わせて燃料とする混焼の両方ができる。実証試験を通じて燃焼安定性や運用性を検証するのが狙いだ。

 水素CGSから発生させた熱や電気は、中央市民病院やポートアイランドスポーツセンター、神戸国際展示場など近隣の4施設に供給、地域コミュニティー内でのエネルギー利用を最適化するシステム運用を行った。

 18年4月には、水素燃料100%のガスタービン発電による熱と電力を、複数の施設へ同時に供給するという試みを世界に先駆けて実現した。

■ 神戸ポートアイランド水素CGS(NEDO補助事業)の概要
水素と天然ガスの混焼および水素専焼によるガスタービン発電機の実証、熱や電気供給のスキーム構築を目指す。2018年4月、水素だけを燃料として近隣4施設への熱電の同時供給を実現した。写真は実証実験を行った神戸ポートアイランドのプラント
(写真提供:川崎重工業 図版提供:大林組)
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 このプロジェクトでは1メガワットクラスの水素ガスタービンを用いた水素CGSや、さらに電気・熱・水素の最適化を目指す統合型エネルギー管理システム(EMS)、複数の建物や地域間でエネルギーを融通し合う双方向蒸気融通技術の開発・実証を行っている。

 特に、液化水素と都市ガスの混焼率を変化させ、経済性と環境性を人工知能(AI)によって最適化しながら運転を行う統合型EMSの技術開発に注力する。同社が水素事業を進めていく上で有力な武器になるからだ。