生産過程で出た繊維くずはバイオマス発電の燃料として再利用するなどリサイクルも徹底しており、99.8%のゼロエミッション化を達成している。

 こうした環境下で生み出されるベンベルグ®とベンリーゼ®は、国際的な認証「GRS(Global Recycled Standard)」、繊維製品の安心・安全を証明する「エコテックス規格100」なども取得している。

 旭化成は2020年、従来は不織布事業の傘下に据えていたベンリーゼ®をベンベルグ事業部の傘下に置いた。「90周年を迎えるベンベルグ®とともに、サステナブルな素材としてブランディングやプロモーションを拡充していく」(前田氏)方針だ。

 旭化成は、サステナブル素材のベンベルグ®を通じてCSV(共有価値の創造)ビジネスにも力を注ぐ。

 その舞台はインド。ベンベルグ®は民族衣装のサリーやデュパタ(大判ストール)の素材として40年以上にわたって親しまれ、現在は年間4000~5000tの原糸を輸出する最大市場だ。

 旭化成は16年から、SDGs達成に向けて国連開発計画(UNDP)が主導する「ビジネス行動要請(BCtA)」に参加している。原料調達から最終製品まで、バリューチェーンのすべての段階における技術指導や雇用創出、安定収入の確保などの課題解決に取り組んでいる。

 具体的な活動として、原材料メーカーに対して、09年からコットンリンターを採取するためのデリンティング設備や分析機器を無償で貸与してきた。旭化成の技術者が品質や効率向上の指導も行っている。「インドは世界有数の綿花生産地だが、生産技術に遅れがあり品質が安定しない」(前田氏)という課題の解決を図った。

 ベンベルグ®原糸を販売する機屋(約40社)に対しては、染色工程でのスレ・シワの抑制方法や時間・湿度の設定など、工業的な生産管理の技術・ノウハウを供与している。

 旭化成の技術指導により品質が安定したため、ベンベルグ®素材の民族衣装の需要は拡大している。技術指導を始めた00年以降、現地のベンベルグ®生地生産者による販売量は約6倍に増加した。また、インドの原料メーカーからのコットンリンターの購入量は設備無償貸与を開始した10年から19年の間で3倍に増加し、これらの活動が現地の雇用拡大や収入増につながった。

 インドの繊維産業やファッション業界の未来を担う学生向けの教育支援活動にも取り組んでいる。デザインや服飾分野の大学と連携し、衣服の素材やベンベルグ®についての講義や、ファッションショーへの作品の素材提供などを行っている。

■ インドにおける社会貢献活動
左/製織工場での技術指導 右/2つの国立大学での授業のほか、作品用の素材提供も行っている
(出所:旭化成)

 BCtAは20年、第1期を終えて第2期に入った。従来の取り組みを継続しつつ、インドの染色工場で旭化成のろ過フィルター「マイクローザ®」を使った排水リサイクルに着手する。2万5000世帯分の使用量に当たる1日に4万m3の水浄化が目標だ。前田氏は、「インドでの取り組みを進化させ、将来的にはインドネシアなどイスラム圏でもCSVビジネスを展開したい」と意気込む。

エネルギー使用量を減らす技術

 政府の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受け、企業にとって温室効果ガスの削減が大きな課題となっている。旭化成はベンベルグ®の染色、加工工程におけるエネルギー使用量を削減する技術の開発に取り組んでいる。

 既に導入した技術として、技術推進部が開発した「ベルティーン®エボ」がある。表面に起毛感を生み出すフィブリル加工において、従来比較でエネルギー総使用量を21%、温室効果ガス排出量を16.5%、それぞれ削減できる技術だ。20年には、パートナー企業がこの技術を採用した生地を商品化した。

 サステナブルな繊維、ベンベルグ®は、「『健康で快適な生活』と『環境との共生』の実現を通じて、社会に新たな価値を提供する」という旭化成のビジョンを象徴する事業と言える。同社は今後もベンベルグ®の品質向上と用途拡大に努めながら、事業を通じて様々な側面からSDGsへの貢献を目指す構えだ。