小学校、病院、オフィス、老人ホームなど中大規模建築の木造化・木質化を進める。森林資源の積極的な活用と循環によって「木化×未来」の可能性を広げていく。

 1975年に木造注文住宅事業をスタートさせた住友林業が、非住宅分野の木造化・木質化事業へ進出したのは2011年。その前年に公共建築物等木材利用促進法が施行され、同社は森づくりと住宅事業で培った技術を生かすため、中大規模木造建築物という新たな分野を目指した。

 新事業を担うことになったのは社長直轄の木化推進室だ。建築市場開発部建築企画グループ副部長の杉本貴一氏は当時を振り返る。

 「木造化・木質化の事業ブランドとして名付けたMOCCAは、Model of Creative Carbon fixation Action(炭素固定の創造的活動モデル)の頭文字だったが、当時はまだ環境問題などの認知度が低く、その意味はなかなか伝わらなかった」

 杉本氏にとって特に印象に残るのが、16年12月20日に完成した宮城県東松島市の宮野森小学校だ。住友林業が初めて手がけた木造校舎で、宮城県や福島県の東北材を中心に約5000本の無垢材を使用した。

 完成当時6年生だった児童は、東日本大震災直後の11年4月に入学して以来、ずっと仮設校舎で学んでいた。東松島市と宮野森小学校校長の、「なんとか6年生の最後の3学期に新校舎を間に合わせてほしい」との要望に、住友林業が応えた。

 17年1月の3学期始業式。相沢日出夫校長(当時)は、完成したばかりの木造の体育館で143人の児童に語りかけた。「目をつぶってください。深呼吸を3回。目を開けて。木のすごくいい香りがしませんか」

 木の良さは、手で触れて、そして香りをかぐことで感じ取れる。その本質に迫る校長の言葉に、始業式に列席していた杉本氏は深く胸を打たれたという。

■ 住友林業の中大規模木造建築(非住宅分野)の施工事例
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住友林業が手がけた木造建築としては最大規模の東松島市立宮野森小学校。東日本大震災直後に入学した児童の6年生3学期の始業式直前に完成

集中力を高め、治療にも期待

 木は子どもたちをリラックスさせ、集中力を高める効果がある――住友林業の筑波研究所は京都大学農学研究科の協力のもと、そうした研究成果を明らかにしている。

■ 木質空間における脳波測定実験
小中学生10人が4種類の空間で計算問題に取り組んだ際の脳波(α波・β波)計測実験
(出所:住友林業)
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 小中学生を対象に、白色クロスの空間と木目の空間で計算作業と休憩時の脳波を調べた。すると、木目空間のほうが白色クロス空間より、リラックス時のα波、集中している時のβ波がそれぞれ高い比率になった。

 木のぬくもりは治療にも期待されている。17年9月、千里リハビリテーション病院にアネックス棟(大阪府箕面市)が完成した。住友林業が設計・施工を担当した木造2階建てで、「木の持つ治癒力」に着目した脳卒中専門病棟だ。実生活に近い環境でのリハビリテーションを目指し、住宅仕様に近づけた設計にした。

 デザイン監修をしたクリエーティブディレクターの佐藤可士和氏は、「外観から内装まで温かみのある木の素材を使い、患者さんに少しでもリラックスしてリハビリに取り組んでいただけるような空間作りを目指した」とコメントしている。

 さらにここ数年、健康経営を志向する企業が増える中、木造オフィスの需要が急速に高まってきた。「長い時間を過ごすオフィスを、社員のためにできるだけ快適な空間にしたいと考える経営者が増えている」と杉本氏は話す。