株主至上主義からステークホルダー資本主義への転換が迫られるなか、ステークホルダーとの信頼関係の構築は重要テーマで、適切な情報開示が求められる。

 「21年度に入ってから、カーボンニュートラルの動きに合わせて、サプライチェーン全体での情報開示の要請が強くなった」。そう話す羽根実優氏も手挙げ制でサステナビリティ推進室へ異動した。現在の仕事が、「長い時間軸で携われるので、やりがいがあると感じている」。

 情報開示は多様なステークホルダーとのエンゲージメントを実現するための手段だ。評価や対話などのエンゲージメント結果を、企業改革・改善のアクションに着実につなげていくことが大切だ。

 そのために「情報開示(P)」「評価機関や機関投資家とのエンゲージメント(D)」「分析(C)」「ESGレベルアップのためのアクションプラン(A)」というPDCAサイクルを構築している。

 アイシングループのように多くの外国人技能実習生が働く自動車業界では、人権の尊重も情報開示の重要テーマになっている。同グループは21年4月、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、サプライチェーンを含めた継続的な取り組みを推進するために、人権専門委員会を設置し、「アイシングループ人権方針」を策定した。

 情報開示に積極的に取り組むことでどんな効果が生まれたのか。羽根氏は次の3点を挙げる。

 「外に目を向けて自分たち自身がどう改革できるかを考えることで、社員の士気が上がった。これが一番大きい。2点目は、世の中で何が起きているか、それにどう対応すべきかを考えるようになったこと。3点目は、社員のSDGsへの理解が深まり、社内改革につながったこと」

人事評価シートにSDGs目標

 20年1月にサステナビリティ推進室に異動した花井優子氏は、入社以来ずっと秘書業務を担当していた。「現在の仕事は自分で考えて取り組めるのでやりがいがある」と語る。

 花井氏が担当するのはSDGsの理解浸透活動だ。以前、社内向けeラーニングでグループのSDGsへの取り組みを学んでもらいアンケート調査を行ったところ、理解度は8割を上回った。ところが、SDGsが会社にとって重要と認識する社員(一般職)は約4割にとどまった。

 SDGsの優先課題や30年目標の達成に向けて、「認知促進」「理解促進」「自分ごと化」を軸に理解浸透活動を推進している。アンケートの結果から社員の業務とSDGsのつながりが不足していると考え、自分ごと化の取り組みを強化した。 

 21年度は、人事評価シートに担当業務とSDGsの関連付けを考えてもらうための記入欄を設けた。社員1人ひとりに、SDGs視点で取り組む内容と、最もつながりのあるSDGs目標を書き込んでもらう。自分の仕事がSDGsにどうつながっているのかについて、気付きを得てもらうのが狙いだ。

 花井氏はSDGsの理解浸透活動の手応えを感じ始めている。「20年の後半から、独自の取り組みを始める部署が増えた。例えば、営業部では新入社員教育で営業に特化したSDGs教育を実施している。車体カンパニーでは工場に“瓦版”を貼り出して、業務とSDGsのつながりや情報を発信している」

 こうした自主的な取り組みで「自分ごと化」が促進されれば、アイシングループのSDGs活動は着実に根付いていくだろう。社内変革へとつながっていくに違いない。