自動車部品で培ったナビゲーション技術により、デマンド型交通手段を実現した。高齢者の利用を増やすためのイベント企画で、地域社会の活性化にも貢献する。
交通の不便な地域で、高齢者の外出を促進したい。こうした思いで、トヨタグループの自動車部品メーカー、アイシン精機が乗り合い送迎サービス「チョイソコ」の拡充に取り組んでいる。
「チョイとソコまでごいっしょに」を意味する、この乗り合い送迎サービスを立ち上げた背景には、過疎地域のみならず、都市部に広がる「交通難民の増加」という社会問題がある。買い物できる場所が近くにない、公共交通が減っている、高齢者は運転免許自主返納が求められている──といった現状により、外出はもちろん、買い物すらままならない高齢者が増えているのだ。


(写真:アイシン精機)
「自動車業界がCASEと呼ばれる領域に向かっている。部品メーカーとして自動化(A)や電動化(E)を主体的に手がけるのは難しいが、コネクテッド(C)やシェアリング(S)はサービスを創出できると判断した」
アイシン精機イノベーションセンター主査兼アイシン・エィ・ダブリュシェアリングソリューション部 部長の加藤博巳氏はこう話す。
現在、チョイソコは愛知県豊明市や兵庫県猪名川町など、4つの地域で運行している。会員登録者は2020年7月時点で1742人、80代が最多で40%、70代の39%が続き、平均年齢は74歳だ。利用目的は買い物が41%、次に医療(通院)が37%を占める。
チョイソコを利用するには事前に会員登録をした上で、電話やスマートフォンを使って予約する。「10時30分に○○病院に行きたい」と、目的地や到着時間、迎えの時間などをオペレーターに伝える。オペレーターは専用のシステムで経路や複数の利用者の乗り降りを計算し、前後の人との時間調整などをする。合意が取れると、システム上の「決定」ボタンを押し、その内容はドライバーが持つタブレット端末に送信される。こうして、目的地までの乗り合い送迎を実施する。
「到着時刻を正確に出すために、当社が培ってきたナビゲーション技術が生かされている。専用のオペレーターがおり、予約の確認だけではなく、ニーズを汲み取る会話もする。利用者の満足度を高めるうえで、コミュニケーションが大切」と加藤氏は説明する。
移動手段が必要な人と車をマッチングさせるアイデアから生まれたチョイソコは、17年から検討を始め、18年7月にスタートした。こうしたデマンド型交通事業を手がけている企業は全国で10社にも満たず、画期的なサービスのはずだった。
しかし、「高齢者が買い物と通院のみに利用すると採算が合わず、赤字になるとわかった」と、加藤氏は振り返る。路線バスが縮小し、タクシー会社が撤退するなかで、単純にニーズをカバーするだけでは限界がある。
チョイソコを運営するための経費は、タクシー会社への委託料が半分近くを占め、そのほかサーバーのシステム維持費用や保険料もかかる。こうした費用を公共施設、スーパー、病院や診療所、薬局、自治体など「エリアスポンサー」の協賛金や、乗車料金、車体に載せる広告料などで賄ってきた。