2006年頃からは脳機能に関する研究を開始した。農林水産省委託事業の支援を受けて行われた東京大学、九州大学、国立精神・神経医療研究センターとの共同研究では、60歳から78歳の健康な男女39人を対象に、イミダ食摂取群とプラセボ食群とに分けて3カ月間摂取してもらった。その後の心理機能検査や脳磁気共鳴画像装置(MRI)検査、血液検査によると、イミダ食摂取群で脳血流の改善や炎症の抑制が見られ、記憶力の低下が抑えられることが分かった。

■ イミダゾールジペプチドの脳老化予防に対する効果
■ イミダゾールジペプチドの脳老化予防に対する効果
農林水産省の委託事業として、東京大学や九州大学などと脳機能に関する共同研究を行った。イミダ食摂取群はプラセボ食群に比べて、心理機能の改善効果が高いことが分かる(左)。脳血流の増加も確認され、脳老化に関わる脳萎縮の改善効果が見られる(右)
(出所:農林水産省)
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 この研究成果は高く評価され、14年に同省の「農林水産研究成果10大トピックス」に選出された。19年に日本ハムはこの研究成果を基に特許を取得した。

 同社は超高齢社会の課題解決に貢献したいとの思いから、21年12月にイミダを主成分とするゼリー状の加工食品の発売を予定している。重視したのが、超高齢社会にとって最大の課題である認知症である。認知機能は50歳頃から低下するといわれ、発症前のMCI(軽度認知障害)という可逆的な段階で介入すれば、認知症発症を予防することができるのではないかと期待されている。

 日本ハムは、イミダを主成分とする食品によって認知機能をトータルでサポートしていくことを目指し、26年度までに300万食相当を供給することを目標に掲げている。

 イミダの製品化について、日本ハム中央研究所次長の菅原幸博氏は、「認知症予防に取り組むことで、生産性が向上し、労働人口減少の解決策の一つとされる『知的健康寿命の延伸』に貢献したい」と研究の意義について語る。

たんぱく質でQOLを向上

 日本ハムの高齢社会への取り組みは、認知症発症の低減にとどまらない。「たんぱく質摂取における選択肢の拡大」という視点で、近年顕著な問題として認識されているサルコペニア(全身の筋力低下、身体機能の低下)やフレイル(加齢により心身が衰えた状態)の問題に取り組む。

 サルコペニアやフレイルは、たんぱく質不足による栄養失調状態であり、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」でも、65歳以上の高齢者は体重1kg当たり1.0g以上のたんぱく質を毎日摂取することを推奨している。高齢者は食欲減少や嚥下(えんげ)困難なためたんぱく質が不足しがちだが、創業以来たんぱく質を供給することに貢献してきた様々な知見やノウハウを生かし、この問題に取り組む構えだ。

 一例として、植物由来のたんぱく質製品や新たな代替たんぱく質の研究などを通じて、「30年度までに出荷金額100億円規模の商品化を実現する」という指針を掲げるとともに、「ニッポンハムグループ全体で食卓の6%のたんぱく質をまかなう」という目標を設定した。

 認知症になれば食べるものを自分で選ぶことが難しくなり、ますますたんぱく質摂取が乏しくなるという悪循環に陥る。超高齢社会のQOL向上のためにも、認知症と筋力低下という2つのテーマを切り離しては考えられない。Vision2030の下、ニッポンハムグループは研究開発をさらに進めていく。