世界でも類を見ない市場再編の機を見逃すまいと、投資家が動いている。生き残る企業はどれか。巧みな選別がリターンを生み出し始めた。

 「今の東証一部から降格すると投資対象から外れるのか」「降格すると株価はどれくらい下がるのか」「実際に株価に影響が出始めるのはいつからか」――。

 岡三証券が2021年3月1日に開催したオンラインセミナー「市場構造の在り方と想定されるコーポレートアクション」で、参加者から質問が次々と上がった。テーマは東証再編だ。企業担当者、金融機関、証券会社のトレーダーなど。500人以上の申し込みがあり、多くの参加者が集まった。

 セミナーで解説を務めたのは、グローバル金融調査部マーケット分析グループの松本史雄チーフストラテジストだ。「プライム市場から降格すると、パッシブ投資の対象にはなりにくいだろう。株価は1割近く下がる可能性がある。その兆候は21年末から顕著に表れそうだ」。松本氏がこう答えると、参加者から「そこを詳しく」とまた声が上がった。

 松本氏は、「予想以上の参加人数と反応で、企業の関心の高まりを感じた。投資家や運用会社だけでなく、企業もいよいよ本格的に動き始めた」と話す。

岡三証券が実施したセミナーの様子(写真:岡三証券)

 東京証券取引所の市場再編まで1年を切った。22年4月に東証一部など4つの市場区分を廃止し、プライム、スタンダード、グロースの3つの市場に再編する。海外でも類を見ない大規模な再編だ。

 注目は、現在の東証一部市場に相当する「プライム市場」だ。東証はプライム市場を、世界と戦える精鋭企業を集めた日本トップ市場と位置付ける。米国や欧州をはじめとする海外の株式市場では、ESG投資を呼び込むための競争が激化している。こうした競争に勝ち、海外投資を呼び込むのが狙いである。

 プライム市場の上場基準は、金融庁と東証が策定中であるが(21年4月末時点)、要諦は明らかになっている。プライム市場の企業には、流通時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上、独立社外取締役3分の1以上といった条件が課される。生き残りか、降格か。今まさに、企業は選別のふるいの中にいる。

リターン3倍「予想以上」

 既に動き出しているのが、投資家や運用会社だ。東証再編の機会をリターンにつなげるべく、金融商品の運用が始まっている。

 その1社がスイスの資産運用会社の日本法人であるUBPインベストメンツだ。20年7月から日本株式の本格運用に乗り出した。ファンドの運用額は約90億円である。

 同社が実践するのが、「マーケットニュートラル」と呼ばれる戦略である。独自のガバナンス基準で企業をふるいにかける。ガバナンスの良い企業の株式を持ち、株価が上がった時点で売却して利益を得る。ガバナンスの悪い企業に対しては株式を借りて売り、株価が下落した時点で買い戻す「空売り」で利益を得る。投資対象は、時価総額1兆円以上の大企業が中心である。

 運用は好調だ。それはファンドの運用効率を示す「シャープレシオ」と呼ばれる指標に表れている。シャープレシオは、リスクに対するリターンの大きさを見るもので、一般的に1倍以上だと優れたファンドといえる。UBPでこのファンドを設計した時は2倍を目指してたが、その際、社内から「そんな良いパフォーマンスは出るはずがない」という声が上がった。ところが、現在のシャープレシオは約3倍になっている。同社の吉原和仁社長も「予想以上のパフォーマンスだ」と驚く。

 背景には、東証再編まで1年を切り、再編が企業の目の前に迫ってきたことがある。吉原社長は、「ガバナンス改革に積極的に取り組む企業と、取り組まない企業の株価の開きが大きい。この差が顕著に表れてきた」と話す。この差はさらに開くと見て、「選別」に商機を見いだす。