基準ぎりぎり企業を狙う

 中小企業を対象としたファンドでも選別の動きが進んでいる。三井住友DSアセットマネジメントの「中小型高成長株式ファンド」だ。機関投資家向けの私募ファンドで、運用額は約200億円である。

 ポートフォリオは、中小型銘柄3500社のうち、「成長性」と「変化」に注目した約60銘柄だ。注目するのは、プライム市場の上場基準である流通時価総額100億円ぎりぎりの企業である。こうした企業のESG要素を分析し、経営者との対話でプライム市場に上場する気があるかどうかを見極める。運用部の髙世智明シニアファンドマネージャーは、「プライム市場を目指して変化しようとしている企業は、将来の収益につながる可能性が高い」と言う。

 このファンドを立ち上げたのは17年12月。それまでの年間リターンはプラスマイナス数%だったが、東証再編の動きが本格化してきた20年度のリターンはプラス46.5%に跳ね上がった。髙世氏は、「企業の変化が株価のリターンとなって表れてきた。この動きがコロナショックでより顕著になった」と分析する。

 国内独立系資産運用会社のベイビュー・アセット・マネジメントは21年2月1日、親子上場の解消をテーマに掲げた「日本市場価値向上ファンド」の運用を開始した。ターゲットは、親会社に吸収されそうな子会社だ。岡本吉弘シニア・プロダクト・マネージャーは、「親子上場の解消は東証再編に絡んだ5年間程度の限定的な動きになるだろう。この投資機会を見逃さず、享受する」と意気込む。

 東証再編の機会は、海外の大手証券運用会社も注目している。

 ゴールドマン・サックス証券の鈴木広美ストラテジストは、「21年2月に入ってから東証再編に関する海外投資家からの問い合わせが増えてきた」と言う。声をかけてくるのは、海外のヘッジファンドや機関投資家だ。「プライム市場に入れなかった企業は受注などに影響が出るのか」「再編で日本企業は海外投資家との対話に積極的になるのか」「ボーダーラインにいる企業を知りたい」などである。

 JPモルガン・アセット・マネジメントで日本企業を対象とした株式ファンド「JPMザ・ジャパン」を運用する中山大輔ポートフォリオ・マネジャーもそうだ。「政策保有株式の縮減、社外取締役の活用、取締役の多様性など、日本企業でなかなか変わらなかった部分が変わる可能性がある。東証再編はイベントの1つにすぎない。これをきっかけにして企業価値がどう変わるのかに着目している」と語る。

世界と戦う922社の姿

 プライム市場にはどのような企業が所属するのか。今回、QUICKの協力を得て調査を実施した。21年2月26日時点の東証一部と二部の企業を対象とし、プライム市場の上場要件である流通時価総額100億円以上と流通株式比率35%以上、改訂コーポレートガバナンス・コード案の要件である独立社外取締役3分の1以上という3条件で絞り込んだ。

 その結果、プライム市場の候補企業は922社となった。現在2193社の東証一部市場は、半数以下になる。

東証再編で一部上場企業は半減する
東証再編で一部上場企業は半減する
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 プライム市場の候補企業を見ると、独立社外取締役は、基準である3分の1と同水準の企業が56.8%と最も多かった。取締役会議長を社外取締役が務めている企業は、わずか4.2%にとどまった。

 ROE(自己資本利益率)は、7割以上の企業が10%未満だった。QUICKリサーチ本部ESG研究所の中村俊之氏は、「米S&P500や欧州BE500企業の4~5割はROEが15%以上との試算もある。プライム市場は海外投資家の注目も高く、一層のESG課題への対応と収益性向上が求められる」と指摘する。

 プライム市場が海外に負けない魅力ある市場になれるか。それは、日本企業が持続的に成長できることを示し、実際に収益を上げられるかどうかにかかっている。再編に向けて動き出した投資家と企業に迫り、ESG経営の未来を検証した。

写真:縄手 英樹/AFLO
写真:縄手 英樹/AFLO

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 2021年5月8日発行の『日経ESG』最新号(2021年6月号)では、特集記事「QUICK共同調査、東証再編で一部上場は半減 ESG選別が始まった」を掲載しています。