ESGの情報開示が企業の評価を大きく左右するようになるなか、世界共通の基準づくりが進む。国を越えて企業の取り組みが容易に比較されるようになれば、情報開示を大きく見直さなければならない。

 国際会計基準(IFRS)財団が今年3月31日に公開した文書を巡り、企業や投資家の動きが慌ただしくなっている。この文書は、非財務情報の開示基準を記した草案で、昨年11月に試作版が公開されて以来、その動向が注目されていた。

サステナビリティ情報開示の世界標準に

 理由の1つは、この基準が世界の標準になるとの見方が強まっているからだ。140を超える国・地域が利用しているIFRSの国際会計基準と同様のプロセスを経て策定される予定で、「サステナビリティ情報開示の共通言語になる可能性が高い」(ニッセイアセットマネジメントチーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー執行役員統括部長の井口譲二氏)との声が上がる。

2022年3月に公開されたISSBの草案写真:IFRS(国際会計基準)財団
2022年3月に公開されたISSBの草案写真:IFRS(国際会計基準)財団

 IFRSの新基準を多くの企業が採用すれば、統一の指標で情報を開示するようになるため、企業間の比較もしやすくなる。非財務情報の開示はこれまで、様々な団体が策定した基準が乱立しており、各社がバラバラに開示している状態だった。「多くの企業が脱炭素の目標を設定するようになり、比較可能なデータが必要になっている」(蘭ロベコシニア・エンゲージメント・スペシャリストのミシェル・ヴァン・エッシュ氏)と、多くの投資家が比較可能な基準を切望していた。「IFRSの基準がベストプラクティスとなって世界の様々な基準が収れんしていくだろう」(同)。

 統一基準ができることによって、企業のESG活動が促進され、結果的に企業価値の向上につながることも期待される。第一生命保険責任投資推進部長の岡崎健次郎氏は、「これまで企業とのエンゲージメントでは、情報を出してくださいというところにとどまっていた。それが、ある程度ベースがそろったうえで、この数字を改善するためにはどうするのか、戦略はこれでいいのかといった議論ができるようになり、全体的に企業の取り組みのレベルアップが図れる」と言う。

 新基準の策定を担うのは、IFRS財団傘下の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)で、議長には、仏ダノンの前CEO(最高経営責任者)、エマニュエル・ファベール氏が就いた。ファベール氏といえば、昨年3月にCEOを解任され、世界に衝撃を与えた。パーパス(存在意義)を掲げ、ESGに積極的に取り組んでいたものの、株主から理解を得られなかった。

 ファベール氏は、「資本市場と企業との対話に一貫した言葉を提供する」と意気込む。